あまり怖くはないのですが、嘘偽りない実話です。 

小学3年の夏休み、釣りが好きで好きで、毎日のようにじいちゃんと近所の小川に行っていた。 
山に囲まれた田舎なんだけど、当時は水も綺麗で魚も沢山すんでいたものだ。 

ある日、じいちゃんに教えてもらったとっておきの釣り場に行ってみることにした。 
けどその日はなぜか一人で行ったんだ。自分にとっては大冒険だった。 

朝暗いうちから自転車を一時間位こいで行くと、お地蔵さんが見えた。 
「ここが山への入り口だな」 
自転車を置き、釣具と弁当を持って、山の中へ続く小道を歩いて行ったんだ。 

結構歩いたと思う。朝靄の中、一本道を進んでいくと水の音が聞こえた。 
草むらを掻き分けて行くと、川がそこにあった。 
ポイントを決め、始めると釣れるわ釣れるわ。無我夢中で釣りまくった。 
お弁当を食べ昼寝したあとも、面白くて一日中釣りを楽しんだ。 

あたりはもう薄暗くなっていた。バケツの中はもう魚であふれている。 
「帰ってじいちゃんに見せてやらなきゃ」
そう思って帰り支度をはじめた時、今まで全く気がつかなかった周囲の異常に気がついた。 

「なんか静かだな」 
虫の声、風が木々を揺らす音、水の音。何も聞こえない。 
「今、この山の中にいるのは自分だけなんだな・・・」 
そう考えると、何故か急にものすごい恐怖感が湧き上がってきた。 

支度を終え、もと来た小道へ戻ろうと斜面をあがって行き、ふと川の方を振り返ると、 
麦わら帽子を被ったおじさんが、自分がさっきまでいた場所に立っていた。 
おじさんは怒っているように見えた。俺の釣り場を荒らした奴がいる、という感じだった。 
自分が何か悪いことをしたように思え、気づかれないよう逃げようとしたとき、何かに躓き転んでしまった。 
ガバッと起き上がり川の方を見ると、おじさんがじーっとこちらを見ている。 
まずいっ!急いで小道へ出て、早足でふもとの方へ歩いていった。 

歩きはじめてすぐ、20m位後ろで「おーいっ」という声がした。 
優しそうな声だったが、自分は無視して歩いていた。 
「待ーてよーっ」
口調が違う。聞いた瞬間にはもう走っていた。 

10分くらい走っただろうか。立ち止まって休むことにした。 
辺りはもう暗くなっていた。 
「ふもとまであとどれくらいだろう・・・」 
月明かりで道は見えるが、逃げてきた方を振り返ると、奥の方は暗闇で何も見えない。 

息が整ってきて、さてそろそろというときに足音が聞こえてきた。 
暗くて見えないが、確実に暗闇の中誰かが歩いてきている。 
また自分は走り出した。 
「おいっ!」
さっきの人の声だと気がついた。数m後ろまで来ている。 
「ごめんなさい!」と叫んで走っているとき、その声を確かに聞いた。 
「ころしてやる」 

自分は全速力で山を駆け下りた。 
あまりの恐怖にわけがわからなくなっていたんだと思う。このあとのことは殆ど何も覚えていない。 
気がつくと家にたどり着いていた。

泥だらけで夜遅く家に着き、親に怒られたのは言うまでもない。 
魚も全部なくなってて、じいちゃんに自慢もできなかった。 
けど、その日あったことは誰にも言えなかった。 
きっと、言ったらもっと親に怒られると思ったからだと思う。 

それからしばらくは釣りに行けなかった。 
次の夏、じいちゃん死んじゃったけど、結局一度もあの釣り場に一緒に行くこともなかった。 

いったいあのおじさんはなんだったんだろう? 

最高に楽しかった思い出と、恐怖の思い出。 
遠い夏の日の思い出。


引用元: ほんのりと怖い話スレ その19