今から21年前の話である。

当時、私は小学五年生だった。 
隣のクラスには、いわゆる知的障害者の『*川』君という子が在籍していた。 
親御さんが「健常な子供と一緒にどうしても教育を受けさせたい」と無理を言って、特殊学級入学を拒否したため、
学校側は仕方なく通常クラスに編入させていた。
この子はあまり目立った問題行動は起こさなかったのだが、ただひとつだけ問題があった。 
何故か『丸八真綿』のCMのまねが大好きで、突発的にところかまわず始めてしまうのであった。 
「ま~るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち~ん。まるはち~ん」
と歌いながら、クネクネと踊りだしてしまうのだ。 
当時このCMは、高見山関(現:東関親方)が出演している事で有名だった。 
クラスの連中は「いつもの事」と相手にしておらず、隣のクラスにいた私は、異常な雰囲気をいつも感じ取っていた。

秋になって、学芸会の季節となった。
今までは*川君は蚊帳の外だったのであるが、
親御さんが「息子も学芸会に参加させて欲しい」と校長に直談判し、学校側はしぶしぶ*川君の参加を認める事となった。


・・・・さて、頭の痛いのは担任教師である。
「どんな役をやらせたらよいものだろうか・・・?」
この時。当時のクラスの三悪である『*田』、『*合』、『*西』らは、わるだくみを考えていた。 
「あいつのおかげでクラス中迷惑してるしなぁ・・・・いっちょ、*川のクソババァに恥かかせてやろうか?」と*田。 
「おもしろい。やろうぜ。で、どうするんだ?」と残りの二人。
「こんなの。どうだ?」 
出し物は浦島太郎。
*川君は乙姫様の巫女役で、舞台の上であのまるはっちん踊りを躍らせて、親御さんに恥をかかせようとするものであった。
更に、『こんな奴がいて、クラス中迷惑している』のを、他の親御さんにアピールするのも実行する事となった。 

もちろん、担任教師の知らぬ所で、この計画は秘密裏に進められた。 
クラスの誰もこの計画に反対する者はいなかった。 
隣のクラスの友達が、(四年生の頃、同じクラスだった)
「今度の学芸会では面白い事が起こるぜ」と、ニヤニヤしながら私に言った事は未だに記憶に残っている。 


学芸会の当日。 
体育館で各クラスが演劇などを発表してゆく。
演目『浦島太郎』は順調に進み、ついに巫女の登場となった。 
鯛役の*合が*川君に言った。 
「さぁ、巫女よ。客人に踊りを差し上げなさい」と言い放つと、 
舞台上の全員が、「踊りを。さぁ!踊りを!」と叫ぶ。 
平目役の*西が*川君に耳打ちした。 
「*川、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん・・・・」 
それに刺激され、ついに*川君はまるはっちん踊りを始めた。 
「ま~るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち~ん。まるはち~ん」
「ま~るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち~ん。まるはち~ん」
「ま~るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち~ん。まるはち~ん」
「ま~るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち~ん。まるはち~ん」
狂った様に*川君は踊り続けた・・・いつまでも、いつまでも・・・ 
ざわめく観客。絶句する*川君のお母さん。 
そして、計画通りに*田がキレた。 


「ふざけんじゃねぇぞ!!何がおもしれえんだ!!バカヤロウ!!!」
と、うそ泣きしながら衣装を破り捨て、体育館から走り去っていった。 
狂った様に踊り続ける*川君を、*合と*西は押さえつけ、舞台のそでへ消えてゆく。
当然、学芸会はこれにておじゃんとなった。
*川君のお母さんはただ呆然としていた。
が、周囲の者達の反感の目が自分に集中していた事に気づき、逃げる様に体育館から去っていった。 

担任教師は激怒し、誰がこんな事を計画したのかクラス全員に問い詰めた・・・*田を除いては。 
が、誰もこの計画が*田らによって計画された事を決して語らなかった。 

一方、*川君の両親はすごい剣幕で学校側に抗議した。 
「何故、息子にこんなまねをさせたんですかっ!!お前らそれでも、教育者か!!」 
この言葉に校長がついにキレた。 
「あんた方が無理言って、通常学級に編入させていたから、こうなったんじゃないんですか??
 何もこちらはこれ以上無理をして、*川君を受け入れるつもりはない。
 これ以上、文句・騒ぎを起こすなら、特集養護学校へ転入してもらうしかない!!
 正直、これ以上は迷惑だ!!」
と凄まじく一喝。
実際、これだけの事を校長が言えたのは、
これまでの実績と、今回の一件で反感をもったPTA関係者のバックアップがあったためと後に判った。 
つまり皆、厄介者払いに奔った訳である。 
*川君の両親は、はらわたの煮えくり返る思いを耐えつつ帰っていった。
この時、お母さんはひどくうなだれていたという。 

その後、*川君とお母さんは行方不明となった。 
そして更に二週間後。二人は焼死体として警察に発見される事となった。
そう、旧阿部倉トンネル跡で。
遺体は相当の程度で炭化していたそうである。 
結局、母親の歯型から身元が断定された。 
遺書は見つからなかったが、覚悟の無理心中と思われた。
お母さんが*川君の頸静脈を鋭利な刃物切り裂き、絶命させた後、ガソリンをかぶって火をつけた、という事らしい。

この後。小学校で*川君の話題がのぼる事は無くなった。 
学校側はほとんど何の対応もしなかった様である。全校集会は開かれなかった事は記憶している。 
ただ、今後の法的・マスコミ対応のためなのか、遺体の身元が判った翌日、終日自習になった事を覚えている。 
*川君のお父さんは、狂った様に校長・担任教師に詰寄ったそうである。 
「*枝も*之も、お前らとお前らのクラスが殺したんだ!!!返せ!*枝と息子を返せ」と泣き崩れた。


そして十数年の時が流れた。
*田、*合、*西の三人は大学生になっていた。 

ある夏の日。彼らは偶然にも再会した。 
久しぶりに再開した三人は、酒を飲み、その勢いで肝試しする事となった。 
その場所は・・・そう、旧阿部倉トンネル跡。彼らは昔の事件を忘れていたのだ。 

深夜。トンネル跡についた三人は、懐中電灯を片手にトンネル内に入っていった。
「あ・・・そういえば」と*合。
「何だよ。*合」と残りの二人。
「いや・・・さ。ここって、*川と、そのおっかさんが自殺した場所じゃなかったっけ・・・」 
「!」「?」
「おい、何が言いたいんだよ」と*田。 
「まさか、未だに恨んでいて、幽霊になって、そこら辺彷徨い歩っていたりして・・・」と*西。 
「いやな事、思い出させるなよ!!」と*田。
「罪悪感はあるわけだ・・・そりゃあ、そうだろなぁ・・・」と*合。
「ま~るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち~ん。まるはち~ん」
と歌いだす*西。 
「やめろよ!!いいかげんにせい!!」と怒鳴る*田。 
「冗談冗談、気にすんなよ」と*西。 
「んな事、ある訳無いじゃねーかよ。本気にするなよ~♪」と*合。 


その時、かすかに声が聞こえてきた。
「・・・る・・は・・・ちん・・・・ま・・は・・・ちん・・・」 
「!」「!」「!」
「おい、やめろって言ってんのがわかんねーのかよ!!お前ら!!」と*田が怒鳴った。 
「俺たち・・・・・何にもしゃべってねーぞ」 
「?だって聞こえてきたぞ。かすかだが。ま・・・は・・・ちんって」と*田は訝しげに話した。 
「お前冗談にならねーぞ。神経質になりすぎじゃねーのか?」と残りの二人が返す。 
が、その時。確かに聞こえてきたのである。あの声が。 
「ま・・る・・はっ・・ちん・・・ま・る・・・はっ・・ちん・・・」 
「?」「!」「!」
「おい、もう帰ろうぜ。気持ちわりーよ」と*西が言い出した。 
その間も不気味で弱々しい声は聞こえ続けていた。 
「俺たちの後ろから聞こえてこないか・・・この声」と*合が言った。 
「まさか・・・そんな・・・」 
三人はいっせいにトンネル出口へ走り出した! 
が、声は小さくなるどころか、どんどん大きくはっきりしたものに変わっていった。 
「ま・・る・・・はっち・・ん、ちゃ・・・らん、ちゃ・・・ちゃ・・ちゃらん・・・」 
「まるはっちん・・・・まるはっちん・・・チャラン・・チャラン・・・チャチャチャ・・チャランチャラン・・」
「まるはっちん~まるはっちん~・・・チャランチャランチャチャチャ・・チャランチャランチャチャチャ・・・」 
「まるはっち~ん、まるはっち~ん、まるはっち~ん」 

「おい!俺たちの後を追いかけてくるぞ!!」 
「もっと速く走るぞ!!」 
彼らは更に走る速度を上げた。 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
声はますます大きくなってゆく。


「もうすぐ出口だ!!」 
「よっしゃあああああ!!!」 

「逃げないで・・・逃げないで・・・どうして逃げるの・・・逃げるな・・逃げるな・・逃げるな・逃げるな・」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるなぁぁぁぁ・・・・」 

「逃げるなぁぁぁぁ!!てめえらぁぁぁぁ!!」と、耳をつんざく怒号がトンネル内に響き渡った。
三人が肝をつぶして振り返ると、10m程後ろにボォッと光っている人の姿が見えた。
が、首が無かった・・・
「うわわわわわわっ!!」
三人が逃げ出そうとしたその時、ボォッと光っている人の手がすごい勢いで伸び、*田の肩をつかんだ。 
後ろに引きずられてゆく*田。
「た、た、助けてくれぇぇぇぇ!!」 
が、残りの二人はすでにトンネルの外へ走っていった後だった・・・・ 

*田の叫び声を聞いた二人が振り返ると、*田がトンネルの中へ引きずられてゆくのが見えた。
*西が懐中電灯の明かりをトンネルに向けようとすると、明かりがフッと消えてしまった。 
そして二人は見た。ボォッと光っている人の手が、*田の肩をつかんでいるのを。
その光っている人の左手には、何かがぶら下がっていた。
「う、う、う、うぎゃああああああああ!!!」
二人は腰を抜かした。 
それは人の生首だった。目と口をカッと開き、二人を見据えていた。
紛れも無く*川の顔だった・・・ 

二人は放心状態になった。 
トンネル内からは*田の叫び声と共に、 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
と、声が聞こえていた。
「許してくれ、許してくれぇぇぇぇぇ!!*川ぁぁぁぁ・・・!!俺が悪かったぁぁぁぁ!!」 
「やめろぉ!やめろぉ!やめろぉ!やめろぉ!やめろぉ!やめろぉ!ギャアアアアアアアァァァァ!!」 

それきり声はピタッとやんだ。
しばらくして、放心状態になった*田がフラフラとトンネルから出てきた。失禁していた・・・ 

結局、彼らはふらふらになりながらも*田の家に行った。このトンネルから一番近い場所だったからである。 
「あら、ずいぶん久しぶりねぇ。*合くん、*西くん」 
「どうもご無沙汰しております。お姉さん」
疲労困憊ながらも、二人は愛想笑いしながら答えた。 
「俺、水飲んでくる・・・先上がっていてくれ」と、*田は台所へ向かった。 
二人は2階へと上がっていった。

さて、*田の部屋で、 
「おい、あの時、どうしてたんだ?*田?」 
「どうしたも何も無いって。あの気味の悪い化け物が俺を捕まえて・・・トンネルに引きずり込んで・・・」 
「で?」 
「俺の周りをぐるぐる回りながら、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん・・・とか言って消えた・・・」 
「いやぁ・・・えらいもん見ちまった・・・しばらく夢に見るなぁ・・・」 
「お前ら、俺を見捨てただろ??」 
「しょうがねーだろ。あの状況じゃあ」 
「まぁ、何とか逃げられたんだから。まぁ、よしとしようや」 

と、その時。*田が言った。 
「逃げられた?逃げられる訳無いじゃん。そりゃ無理だよ・・・」 
「?」「?」
「何言ってるんだよ?*田~♪」 
「だって、だって、ボクハココニイルンダモン!!」
と向けた顔は、*田の顔ではなかった・・・*川の顔だった。トンネルで見たのと同じ・・・
「ギャアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」 

階下のお姉さんは「上が騒がしいわねぇ。全くもぉ・・・」と、2階へと上がっていった。
*田の大きな声が聞こえてきた。歌っているようだ。 
「?????」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ま~るはっちん!チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ・・・
 まるはっち~ん、まるはっち~ん♪」 
「ちょっとぉ、うるさいわよぅ。もう少し静かになさいよ。深夜なんだから」
と部屋の扉を開けて、彼女はその光景に凍りついた。部屋の中は血まみれだった。
血まみれになった*田が部屋の中で踊っていた。 
床には首を切られて血まみれになって死んでいる*西と*合が転がっていた。
*田は彼女のほうへ振り返ると、「ジャジャンジャジャジャン!!!マルハッチ!!!」と叫ぶや否や、 
持っていた包丁で自分の首を切り裂いた。 
飛び散る血。大量の返り血を浴びた彼女・・・
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 

彼女は未だに隔離施設から戻っていない・・・