友人のもり君には彼女がいない。もてそうな奴なのに、と不思議に思っていた。

ある日、二人で飲みに行く機会があった。
気になってそのことを訪ねてみると、彼は黙り込んでしまった。
聞いちゃいけなかったかなあ、と思っていたら、「家に遊びに来ないか」と誘われた。
気を悪くしてないことにホッっとして、僕は素直に申し出を受けた。 

酔っていたから定かではないけれど、アパートに着いたのは夜の1時前くらいだったと思う。 
もり君は鍵を開けると、不思議なことを言った。 
「中に入ったら内側から鍵を閉めるから、この鍵で外から開けて入ってきて」 
怪訝そうな顔をすると、「内側からかける鍵が壊れていないか調べたい」と言った。 
僕はお安い御用と、彼が中からドアを閉めた後から、鍵を回して部屋に入った。 

本当はここで、彼がしようとしていることに気づくべきだった。 

僕は部屋に入ると、彼と再び酒を飲みながら話すつもりだった。 
しかし、酒が水みたいに感じる。
僕はなんだか、その部屋にいるのが嫌だった。
胸騒ぎがする。胃が浮き上がっているような感覚が止まらない。 
こちらの気分が伝わったのか、彼の口調も重い。 
僕は部屋に入ってからずっと気になっていることを、彼に軽い調子で訪ねたかった。 


299 :本当にあった怖い名無し:04/10/14 21:28:32 ID:BOyHxCgw
だんだん家に帰りたくなってきた。彼の家に来てから30分もしない。 
もう真夜中だから電車なんかない。それでも僕は、家に帰りたくてたまらなかった。 
それくらい、その家にいるのが嫌だった。 

その時、どんな言い訳をしたのかは覚えていない。動揺していたんだと思う。 
だから、彼が僕を引き留めないことにも、疑問を覚えなかった。 
僕は逃げるように、タクシーで家に帰った。 

今思い起こせば、最初の鍵が問題だった。
あれの意味は、僕にドアを鍵で開けさせることにあったのだ。
鍵でドアから入り、最初に出て行くこと。 

ついこの前、彼女が僕のアパートに遊びに来た。
そして僕があの晩、頭の中で彼に訴え続けた疑問を口にした。 
「玄関のハイヒール、誰よ」 

僕は今夜にでも、家に友人を呼ばなければならない。