投稿者:黒猫


職場が遠距離のため、電車とバスを使いながら通勤していた男がいた。

ある日、いつものように職場に向かうため電車に乗っている最中、強い眠気に襲われた。
目的の駅まではまだ時間がかかるため、男は爆睡しない程度に仮眠をとることにした。

気がついたら、男は見知らぬ公園の砂浜に仰向けになって寝転がっていた。

右隣すぐに数人の子供が騒いでいた。

「早く投げて〜!」
「次は私よ!」
「次僕に投げてよ!」

男が首を子供たちの方に向けると、5人の6、7歳ぐらいの少年少女達が、砂まみれのボコボコになった野球ボールのようなものを投げて遊んでいた。

ひとりの三つ編みの女の子が、ボールを地面に叩きつけた。
それと同時に、男は身体中に痺れ渡るような痛みを感じ、嗚咽する。

「なんだこれ。弾まないじゃん……」
「つまんないのー」

不満そうな顔をした子供達は、そのボールを上から見下ろししばらく見つめた後、坊主頭の一番やんちゃそうな少年が、ボールを2、3回強く踏みつけた。
それと同時に、男の身体にも2、3回電撃が走ったような痛みが襲った。

「他の探そう」
「探そう、探そう」

ひとりのおかっぱ頭の少女を残して、他の子供達は公園を出てしまった。
おかっぱの少女は、男と目が合うと後ろで組んでいた手を離した。
彼女の右手には小さなナイフが握られていた。

「な、う……が……」

意識があるのに声を出せない。涙目になりながら痛みにもがく自分の無様な姿を、心配することもなく無表情で見つめる異様な少女は、ただの人間ではないことに気がついた。
身なりが古臭く、今時おかっぱの女の子なんていない。

周りを見渡せば、1950年代風の街並みが広がっていた。ここは現実じゃない。夢だ。
その当時、男はまだ生まれてない。ここに自分が存在しているはずがない。

『一体なんでこんなところに?お前何者だ?』

声に出さずともここは夢の中。
少女は彼が心の中で思っていることを把握したのか、汚いボールを持って歩み寄ってきた。
離れたくても、体が金縛りのように硬直して動けない。

「これ、だーれのだ?」

少女がボールの慣れ果てのようなものを左手に持ち、男の目の前に差し出してきた。
微かに生臭い。それを持つ少女の手には、赤黒い血のようなものがべっとりとついていた。
そのボールからも赤い液体が滴り落ちている。

『これ、普通のボールじゃねぇ!じゃあ、これは……』

少女は「ふふふっ」と不気味な笑い声を放ち、右手に持っていたナイフの矢先でボールをつっつく。
矢先が当たると同時に、さっきよりかは軽い鋭い痛みが走った。

「あんたの……アレだよ、アレ」

少女の目線が男の下半身に移動する。
男にはわかった。アレの意味が。

『たっ頼む!もう昔の話だ!時効だろ!』

少女の眉が潜む。その瞬間、少女は幼い子供とは思えない悪魔のような図太い声で怒鳴った。

「黙れ!お前のせいであの子が不幸になったんだろう!お前も同じ目に合わせてやる!」

少女がボールをナイフで突き刺し、貫通した。

「グェェェェェッ!!!!」

男はあまりの痛みで意識を失った。
ふと気がつくと電車の中だった。目的の駅まであと2駅というところだった。

「ちくしょう……」

男は冷や汗でびっちょりになった額をスーツの袖で拭う。

「うっ!!」

ふと鞄から水を取り出そうと前かがみになったその瞬間、夢で感じたあの激痛とそっくりな感覚が男の股間から全身を蝕んだ。
両隣の乗客の目を気にしながら、アレがある場所を少し触れて確認する。

『ない……ないぞ!あの夢は、まさか現実だったのか?』

男は頭が真っ白になった。

『一生かけてあの子に償え。さもないと、お前の体のものをもう一つ奪う』

夢で見た少女の声が男の脳裏に響いた。
ふと右手に違和感を感じ、開いてみると、破れた古い紙に住所のようなものが書かれていた。

『今すぐそこに行け。お前が詫びるべき人がそこにいる』

恐ろしくなった男は、体調不良を理由に今日は会社を休んだ。
代わりに、学生時代にいじめで身体の一部を不自由にさせてしまった同級生に詫びに行くことにした。

しかし、この男の罪は、あの少女と同級生が許さない限り、死んでも永遠につきまとうことになるのだろう。