投稿者: 9

30年ほど昔、山陰の寒村での話。
里山の木陰に穴があいているのを見つけた。
地面にぽっかりと唐突に、ぼっとん便所の汲み取り口ほどの穴。木の根や枯れ草で奥は見えないが、かなり深そうだった。
覗きこんでいると、奥から声が聞こえてきた。方言がきつくて理解できない部分もあったが、

・穴から出られず困っている
・自分は沈んでいくことしかできないので、自力では出られない
・紐か糸をたらしてくれれば出られる

トランシーバーで話しているような、途切れがちな低い声。
今思えば不自然だが、さして疑問に思わず、自転車の荷台に巻いていたゴムロープを穴に降ろした。
奥まで到底届きそうもなかったが、ロープが伸びきった瞬間、後から声がした。

「礼は必ずするでな」

我に帰って、急に恐怖心がでてきた。
一目散に帰宅したが、怒られそうな気がして大人には言えず。

あれから特に怪異のようなことは起きていない。
いつ礼をしてくれるのかと、恐怖と楽しみ半々くらいの気持ちで待っている。