投稿者:やまと


小5の夏休み、祖父母の家に泊まりに行った時の話。
8月の20日頃から1週間ほど俺と、ひとつ下の妹だけで祖父母の家に泊まることになった。
夏休みも終盤に差し掛かり、なんとなく憂鬱な気分と、宿題を終えていないことへの焦りを抱えたまま特に何をするでもなくただのんびりと過ごした。

祖父母の家は所謂日本の田園地帯ってとこにあって、目の前には川、そのずっと先に山が並んでて、それ以外は田んぼって感じの、わかりやすく言うとトトロに出てくるようなど田舎だった。
俺が住んでるところも田舎っちゃ田舎なんだけど、こっちはまるで昔話のような異世界で、子供ながらに良いところだなぁと思った記憶がある。生意気だけど。

祖父母は優しくて、何をしてもニコニコしてて絶対に怒らなかったけど、夕方は外に出るなとそれだけは厳しく言われた。
こんな田舎、言われなくても夕方以降外なんか出るわけがない。
しかしある日テレビを見ていた俺は、そこで見たカブトムシがどうしても欲しくなって山に向かった。当然そう簡単には見つからない。明け方や夕方以降の暗い時間じゃ無いと出てこないらしい。
幸い家の周りはほとんど森のようなところだったので家から見える範囲にカブトムシのいそうな木は山ほどあった。
だから、俺は夕方、ひとりで絵を描いてる妹と祖父母の目を盗んでこっそり外に出て近くの木を物色し始めた。

今になって思い返せば、あの手の針葉樹にはカブトムシは寄ってこないだろうってことはわかるんだけど、そんなこと知らずしばらく探し回っていると、突然、ザァーーッという音が鳴り響いた。鳴り響いたと言うより、降ってきた。音が空から降ってきたと言う感じが一番的確。雨音のような、風が葉を揺らす音のような。もちろん風も吹いてないし雨も降ってない。
ただその音は次第に大きくなって、終いに頭の中はその音に支配された。

怖くなり慌てて家に飛び込んだ。
祖父母がいない。妹もいない。
音だけが聞こえる。止まない。恐ろしくなって家中の電気をつけた。
無駄に広い平屋建ての木造家屋は、改めて見ると暗がりばかりでいたるところに何かが潜んでいるような気がして俺は泣きそうになった。
ザァーーという音は一向に止まず、それどころかどんどん脳内に侵入してきて、頭の中で増幅していく。

外に出たからなのか?
夕方に外に出たからこんなことになったのか?
だとしたらこの辺に住む人たちは夕方以降どうやって生活してるんだ?全く外に出ないのか?

おかしくなりそうになりながら、子供ながらに冷静でいようとそんな事を考え出した。どのくらい時間が経ったか、ふと音が止んだ。
辺りは既に真っ暗で、今度はその静けさが恐怖を煽った。
妹は、祖父母はどこなんだ。何をしてるんだ。なぜ誰もいない。

家の中を探し回っても、人がいた気配すらない。妹が絵を描いていた画用紙もクレヨンも無い。靴もない。出かけた?俺を置いて?

もう一度外に出て妹達を探す気にはとてもなれず、途方に暮れていると、遠くで妹の声がした。
おにいちゃぁぁん
おにいちゃぁぁん
という聞き慣れた声。
俺は声の方に目をやった。声のする方角は、さっきまで俺がいた外の暗闇の中だった。
まさか、祖父母と一緒に俺を探しに行ったのか?
そう思い庭に飛び出し、おーい!と妹の名を呼んだ。
おにいちゃぁぁん
おにいちゃぁぁん
気付いていないのか?

そこで俺はふと違和感に気づいた。
妹は俺のことをお兄ちゃんと呼んだことはない。にいにと呼んでいる。
お兄ちゃんなんて一度も呼ばれた記憶がない。

ではあれは誰だ?
もう一度耳をすますと、声はかなり遠くから聞こえていた。おそらく家の前を流れる川の向こう。田んぼのあぜ道のど真ん中あたり。
家からはかなり離れてる。声が聞こえるギリギリの距離。
そんなところに妹がいるはずない。祖父母が一緒だとしてもそんなところ探すわけがない。
そもそも俺はずっと、家と庭が見える範囲でカブトムシを探していた。三人が外に出たなら気付くはずだ。

ゾッとした。
おにいちゃぁぁん
おにいちゃぁぁん
という声は、規則的に、サイレンのようにこだましている。

不思議なことに、その声は、かなり遠くから聞こえているのに頭の中に響いて、ワンワンと反響した。
おにいちゃぁぁんと言う声が、ワンワンと反響してそのうちうわぁぁぁぁという叫び声のようになって、消えていく。それが繰り返されるうちいつの間にか今の声はあのザァーーッというテレビの砂嵐のような音に変わっていた。
かすかにノイズのように妹の声が聞こえるような気がしたが、すぐに掻き消された。
ザァーー・・・ニィ・・ゥアア・・・ザザァー

何が何だか分からなくなってとにかく家に駆け込んで、布団をかぶった。
サイレンのような、叫び声のような、呼び声のようなその音はしばらく耳と脳に張り付いていたけど、気を失ったのか寝てしまったのか、気がつくと朝になっていて音も止んでいた。
隣には妹が寝ていて、祖母が朝食を作っていて、祖父は田んぼに行っているらしくいなかった。

昨夜のことを話すべきか迷っていると、祖母が目を覚ました俺に気付いた。
「昨日は大変だったなぁ。怖かったベぇ。」
ん?昨日の事はまだ話してない。
「怖かったなぁ。でもこの辺ではよくあるこったから。」
なにが?よくある?なんの話だ。
俺がぽかんとしてると、やや不思議そうな顔をして祖母が言った
「あんた昨夜外出てカン様のとこ行ったでしょう。カン様のとこは夜行ったらダメなのよ。」
なにそれ聞いてない。カン様ってなんだ?神様?俺はさらにポカンとした。
詳しく聞くと、この家裏手に神社があって、古い神社でこの辺の人みんなで管理してて、その神社と家のちょうど間に道祖神みたいな石碑みたいなのがあってそれがカン様らしい。神様のことは神様って言ってたから神様がカン様ではないみたい。
だからなんなんだって話で、知らずのうちにカン様に近付いた俺が怖い目に遭わされたのか?それとも夢?
それはそうと
「よくあることってなに?」と聞くと祖母はなにを今更、みたいな顔をして

「だから、あんたみたいにカン様に近付いて持ってかれそうになることだよ」

鳥肌が立った。
持ってかれるってなに?ばあちゃんなにを言ってるの?俺をビビらせてるの?

そうこうしてると妹が目を覚ました。グズグズと何かボヤいている。どしたの?と聞くと

「にいに、カン様と遊ばなくてよかったね」

その時妹がこの世のものとは思えない途轍もなく恐ろしい存在に感じた。
妹はそれ以来霊感?みたいなものに目覚めたのか時々何かを見て泣いたり、何かを感じて泣いたりしていた。
今じゃ立派な霊能者(笑)だけど。
俺はそんなの信じてないし、あの経験も夢だと思ってるけど、祖父母は亡くなったし妹も当時のことは覚えてないらしいから真相は闇の中。
ただ思い出そうとするたびハッキリと鮮明に覚えてるのは、あのザァーーという音と、妹の声で、あれはきっと一生頭から離れないと思う。

甲子園とか火事のサイレンとか、雨音とか聞くたび、サイレンや雨音の中に微かに聞こえる時がある。空耳だろうけど
お・・にぃ・・・ちゃぁぁぁ・・・ん
て。

全く怖くない上長文失礼しました。
階段というより俺個人のトラウマ話です。
個人的に霊の仕業とかそういう類の物とは思いたくないんだけど、もしかしてその手のものなのかなと思って投稿してみました。
心当たりある方いたら教えて欲しいです。