投稿者:お冷や


これは私が大学2年生の時、保母さんのバイトを始めたばかりの頃のお話です。

期待と不安が入り混じる初仕事で、両親の帰りが遅い家庭の子のお守りをすることになりました。

可愛らしい一人っ子の女の子です。

その子は内向的な性格のせいで、あまり友達は多くないそうです。
案の定、初対面の私が優しく話しかけても、なかなか心を開いてくれませんでした。

ですから私はそんな彼女の心に少しでも近づけるよう、様々な試行錯誤を繰り返しました。

それから一ヶ月ほどが経過して、ようやく彼女も私に親近感が湧いてくれたようでした。

その子はどうもお絵描きが好きらしく、何か描いては私に見せてくれるようになったのです。

特に、風景画を描くのが好きなようでした。

その子の部屋の壁には、独特な色使いの作品が所狭しと飾ってあるのです。

そんなある日、彼女がいつものように絵を描いていた時のこと……。

「わぁ、とっても上手だね。お姉ちゃんのこと描いてくれたのね?ありがとう。」

突出した完成度の一枚の人物画。

私はその子の頭を、愛情を注ぐように撫でました。

その子が初めて描いた人物画モデルが私だったので、つい嬉しくなったのです。

すると、意外な答えが返ってきました。

「それ……お姉ちゃんじゃないよ。」

その子は静かに呟くのです。

「……え?」

その絵をもう一度見直しました。

角隅の壁をバックに、どこか憂いげな表情で佇む女性。

言われてみれば確かに、私ではなさそうでした。

「じゃ、じゃあ……この人は?」

瞬時に喉が渇き、声が上ずり、嫌な脂汗が額に滲み出ました。

「いつもそこにいる人だよ。」

その子は何のためらいも無く、私の背後の角隅を真っ直ぐ指差すのです。

私は背筋が凍るような思いがして、ゆっくりと後ろを振り向きました。

異常は……無いようです。

「もぅ、ビックリさせないでよ〜。」

私は強張る肩の力が抜けて、自然と視線を下ろしました。

「……あれ?」

一瞬思考が停止して、血の気が引く感覚で意識を取り戻しました。

そこには、数本の長い黒髪が落ちているのです。

私は茶髪、その子はショートヘアーなのに……。

その子は私の震え上がる背中に、容赦無くトドメを刺しました。

「今もね、お姉ちゃんのこと……ジィーと見てるよ。」