投稿者:イチ 


高校の時のことです。
記憶違いもあるかと思いますが、大人になっても残っているよう書いておきたいと思います。


その日俺は疲れていた。
肉体的にもそうだが、精神にかなりきていた。
どんなに頑張っても上がらない成績に嫌気がさしていた。
俺は、高校で上京した。
地元にも一応高校はあった。さらには、兄が地元の工場で働いていて、就職先も確保されていた。
だがどうしても東京に出たかった。

俺は遊びやスポーツは大好きだが、簡単に言うとアタマが悪かった。
勉強の要領が悪く、上京して都会の奴らに混じり、さらにバイトも始めると成績はガタ落ちだった。
東京に来て最初に、アメリカンドリームみたいに思い描いていたものも、もうどうでもよくなっていた。

だが忙しい日々もいったん終了。
夏休み到来となった。
俺はバイトや友人の誘いに折り合いをつけ、数日間帰省することにした。


蒸し暑い夜、肩掛けのバッグ一つ持って下宿を飛び出した。

夜になると、東京の繁華街はよりいっそうモンスター度が増す。
ネオン街や、その中を闊歩するキャバみたいなおねーさん、突っ立っている強面のおっさんを横目に見ながら歩く。

迷いそうになりながら何とか夜行バス乗り場に着いた。
停車場にはすでに小型のバスがいて、乗客も十数名、登山の格好のおっさんたちや、俺と同じような学生もいた。

時間になりバスが発車した。
バスは高速を静かに走り、11時頃には消灯され、乗客たちは寝た。

しばらくすると車内の明かりがつけられ、サービスエリアに着いていた。
俺はトイレに行き、少し土産を見てブラブラしてからアイスを買って食べた。
と、隣に登山っぽいおっさんの一人がやってきて、話しかけてきた。
「学生さん?どっか行くの?」

二人で雑談していると、ふとおじさんが俺のバッグに目をとめた。
そのままバッグに釘づけになっている。
「きみ、それ拾ったの?」
いきなり警官の尋問みたいになり、ムッとした俺がバッグを見ると、
見覚えのない小さなストラップが付いている。
だが売り物の見た目ではとうていなく、粗末なつくりである。モチーフも猫なのか熊なのか分からない、変な獣の頭蓋だ。

困惑する俺をじっと見ていたおじさんは、
「そうか・・・残念だが何も・・いや」
というと、急いでメモを取出し、何処かの電話番号を書いた紙を渡してくれた。
「何か困ったことがあったら、そこにかけなさい。」
おじさんはなぜか急に急いでいる様子になり、メモを渡すとすぐに立ち去ろうとしたが、
「あっそうだ、これ、登頂祈願のだけど・・持っていなさい」
お守りをくれ、呆れ返った俺を尻目に、スタスタと立ち去って行った。

ふとストラップを見ると、モチーフが向きを変えて、去っていくおじさんの方を見ている・・気がして、気味が悪いので外しゴミ箱に捨てた。

時間になり、バスはサービスエリアを出発した。
あのおじさんの席は空っぽになっていた。

うとうとしていた俺はふと目が覚めた。
車内の明かりがついているので、休憩かと思ったが、バスは走行している。
なんだか違和感を感じた。
バスがなんとなく古ぼけたような気がする。内装は変わらないが、昭和の路面バスのような雰囲気だ。
後部座席を見回すと、乗客が一人もいない。

バスが止まった。
ドアが開いて、停車場に着いたらしい。
(えっここバス停?)
山道なのか、辺りは真っ暗で、俺はこんなところでは降りないし、訝しがって窓の外を見ると、木々の間に白っぽい着物姿の人が立っているのに気付いた。
(ああ人が乗るのか)
視線を窓から戻そうとした瞬間、悪寒が走った。
目の端に、その人がいきなり四つん這いになるのが見えた。
四つん這いになる際バスの方へ近づいたので顔も少し見えた。黒いバサバサの髪の隙間から、骸骨のような白い顔がのぞいている。
そいつは乗車口でなく、俺の席の窓の方へ這ってくる。

思わず立ち上がって運転席を見た俺は愕然とした。
運転手がいない。
俺は、無我夢中で、運転席に走り思いっきりアクセルを踏んだ。
バスは乗車口を開けたまま急発進した。
発信する際、バスの車体にドンッとぶつかる音がした。

あいつが追ってきている気がして、ただひたすらまっすぐ、必死にバスを走らせた。

しばらくすると、開けた土地が表れて、集落のようなところに着いた。
バスをてきとうに停車させ、少し躊躇ったが、荷物を持って下車した。

そこは廃村のようなところだった。
舗装されていないあぜ道を歩いていると、人の住んでいる家を見つけた。
その家だけなんというか、可愛らしい見た目だ。こじんまりしていてメルヘンのような外観である。
三角屋根に、ところどころレンガのはめこまれた壁、小さな飾り窓。入り口にはステンドグラスのランプや花、うさぎの置物なんかもある。

とりあえずアンティークなチャイムを鳴らしてみた。
何度目か、これでダメならあきらめて他をあたろうと思ったとき、やっと、遠慮がちにドアが開かれた。