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カテゴリ:洒落怖 > 洒落怖61‐90

俺が高校2年の頃の話。

俺はちと重い持病を持っていた。
それが原因で、長期休暇中は検査の為にいつも入院せにゃならんかった。
折角の夏休みを半月近くも病院で過ごさなきゃならなかったが、意外に同年代の奴も多く友達もできて案外楽しいもんだった。

そんな風に結構入院ライフを満喫していたある日の事、俺は夜中ににトイレにいきたくなった。
当時その病院はまだ建てられたばかりで、内装も綺麗なもんだったが、やはり夜の病院は怖い。
少々ビビリながらもトイレへいったんだが、トイレの手前は曲がり角になってる。
俺がその曲がり角の手前まできた時、いきなり曲がり角の向こうからニュっと指先が出てきた。
ちょうど角につかまる感じで、指先だけが角の先に出てきたんだ。
「!!!??ッ」
正直めちゃくちゃビビった。
だが前にも俺はここで曲がった直後、同じく入院していた爺さんといきなり鉢合わせしてしまい、
失礼な事に「っひゃ!?」などと情けない悲鳴を上げた事がある。
だから今回も、ちょうど誰かがトイレから出てきたんだな、と思ったんだ。
だが、どうにも様子がおかしい。
トイレまでの通路は結構狭く、点滴をつけた患者さんなんかだとすれ違うのはなかなか困難。
なのですれ違おうとせずに角の手前で待っていたんだが、いつまでたってもその指先の主が出てくる気配が無い。
1分たっても今だ微動だにしない指先を見て、もしかしたらヤバい?と本能が警鐘を鳴らし始めたが、
もしここでこの指先から目を逸らしてしまったら、
その瞬間、曲がり角の向こうにいる何者かが、自分を角の向こう側に引きずりこんでしまいそうな気がして、
どうしても目を逸らす事が出来なかった。 


どうすることもできず、指先を何分程みつめていただろうか。
ふいに、まったく動く事の無かった指先が動きはじめた。
ゆっくりと指を波の様にくねらせながらというより、ムカデが歩く時の様な妙に嫌な感じの動きで、
角をつたいながら上へ上へと上がっていく。
最初は俺の肩の位置くらいにあった指先が、目の高さになり頭の高さになり・・・とうとう天井近くまでの高さになってしまった。
ヤバいな・・・これ、絶対人間じゃない。
正直失礼な話なんだがさっきまでは、
もしかしたらここは病院だから、この指先の主はいわゆる『おかしい人』なのかもしれない、
それでこんな意味のわからない行動を取ってるのかも知れない、
という考えもあったんですが、もうそんな疑念は消し飛びました。
指先の位置はもう俺の身長の2倍以上の高さにあります。明らかに人間の届く高さじゃありません。
あれが天井に届いたら次はどうなる?・・・まさか出てくるのか?
自分の思考にかなりの恐怖を感じました。
そんなことを考えているうちに、とうとう指先は天井まで上がりきってしまいました。
どうなる?どうなる!??
もう頭の中はパニック寸前だったかも知れない。
しかし、指先は天井に届くと、出てきた時と同じくらいの唐突さで角の向こう側にサッと引っ込んでしまった。
指先がもう見えなくなった後もしばらくその角から目が離せなかったんだが、もうそれ以上は何も起こらなかった。
けれども、流石にその先のトイレを使う気には到底なれず、
迷惑承知で、個人病室持ってる奴のとこに頼み込んでトイレを貸してもらった。

これでこの話はお終い。
ちなみに今でも俺はこの病院に通院してるし、相変わらず長期休暇には入院もしてる。
だけど、あんな恐怖体験したのはあの時1度っきりなんだよな。
今度またあったら今度は角の向こうを覗いてみようと思ってる。まぁ俺ビビリだから無理かもしれないけど・・・
それに妙に印象に残ってるんだが、
普通幽霊とかならもっと極端に色が白かったり、肌が老人みたいだったり、爪が妙に黄ばんでたりとかするもんなんだろうけど、
あの指先は健康そのものだったんだよ。
肌も瑞々しかったし、ちゃんと赤みもさしててさ、俺なんかよりよっぽど健康そうだったw
だからこそ最初は人の手だと信じて疑わなかったし、その分俺の恐怖度も倍増だったんだけどな。

私が高校時代の話です。

私の高校は演劇部がすごく有名でした。
成り行きで私も演劇部に入っていたのですが、扱う作品のレベルが高いだけに練習量も半端なく、相当きつい毎日でした。
私が三年の時、四年前に上演した戦争の芝居を再び上演することなりました。
話の内容はひめゆり部隊の話で、高校生が扱うにはかなり重い作品なので、練習量はさらに増していきました。
学校夜遅くまで残ることはもちろん、学校に泊まることもざらでした。
戦争物の芝居をしてるってだけで、段々やばい雰囲気になっていくんですよ。まして夜の学校は暗くて静かで。
霊感のない私でもアソコはやばいなと察することができるほどで、ナニカがそこにいるのは確かでした。
でも稽古に追われていくうちに、幽霊にいちいちびびってる状況じゃなくなっていくんです。
だけど、ある一年生の様子が明らかにおかしいんですよ。
ただでさえ細いその子がどんどん痩せてやつれていくの。 

幽霊か?やばいなぁと思いつつ、
指摘しようにも講演前に余計な事で不安にしたくなかったので、卒業した霊感の強い先輩に相談することにしました。
すると、四年前に上演した同じ芝居でも同じ症状になった人がいたと言うのです。
それはなんと一年生の子と同じ役柄の人で、一年生の子の実姉でした。
先輩曰く、姉もみるみる痩せ細って158センチ38キロにまで落ちたらしく、
その姉の背中には、防空頭巾をかぶった赤ん坊がのっかっていたそうです。
講演が終わって、当時の姉にその事を告げると、なんで教えてくれなかったのかと怒られたそうです。
しかしその赤ん坊は眼球がなかったらしく、恐ろしくて言えなかったと言い、なんとか許してもらったそうな。

結局、講演が終わったらきっと元に戻るだろうからほっとこうということで解決。
やつれて辛そうだったけど、四年越しの講演も無事成功したら元の姿に戻ったらしく安心しました。

後日、その一年生とその件について語ることがありました。
すると、その一年生は霊の存在に気づいていたそうです。
なんで?と聞くと、
「クラスの子が教えてくれたんです。『あんた背中に霊しょってるよ。赤ん坊。目がなくて怖い』って言われました」
正直ぞっとしました。
四年前に姉にとりついた赤ん坊が、四年後にその妹にとりつくなんて。
優しそうな姉妹の背中にすがりついてた赤ん坊の姿を想像すると、なんだか怖いというより切ないですね。

オレが小学校の頃の話。 

オレの通う小学校は坂の上にあった。 
で、皆その坂を上って登校するんだけど、その途中に大きな木があったのね。 
ロープが張られて、『立ち入り禁止!木登り禁止!』って札が立ててある。 
ほとんど足をかけれるような場所もなく、誰もそんなファンキーな事しねーよ、と思ってた。 

三年生くらいの頃かな、下校中ふとした瞬間に木を見上げると、上の方に子供がいる。 
いや、人が居るというより、子供の人影がある。 
木のてっぺん近く、少し太めの枝に座ってるような影。 
オレは見間違いだと思って、気にしなかったんだ。 

でも、次の日の下校中も、やっぱりその影はあった。 
気のせいじゃないと思ったオレは、一緒に下校してた友達に聞いてみた。 
オレ「あの木の上に、子供みたいな人影が見えない?」 
友達の答えは、「何も居ないよ。気のせいだって」。

訝しく思いながらも帰宅。 
親に言っても信じてもらえないだろうし、言わなかった。 

そしたら、一緒に下校してた友達のAから電話が。 
A「今日、木の上の話してたじゃん?あの時言えなかったけど、オレにも見えたんだ…」 
でも、いくら話しあったって、真相が分かるはずもない。 

次の日の夕方、下校する生徒も居なくなった頃、Aと二人でその木の近くまで行ってみた。 
周りは薄暗かったけど、木の上の子供の影は濃く、はっきりと形が見えてた。 
で、その影は、こちらに向かって手を振った。 
何故かは分からないけど、一瞬で背筋が凍ってヤバイと思った。 
隣を見ると、Aは影に向かって手を振っている! 
オレ「バカ!帰るぞ!!」 
半ば引きずるようにしてAの家まで行き、オレも帰宅。 

次の日、学校へ行くとAが来ていない。 
休みという事だったけど、滅多に休まないあのAが? 

下校中、見てはいけない気がしながらも、木の上へ目をやった。 
人影はなかった。

帰りにAの家へ寄ってみたけど、「熱が出てて会えない」と、Aのお母さんに言われた。 

三週間ほどAの休みは続いた。
その間に4、5回はAの家を訪ねた気がするが 
Aのお母さんはいつも「熱が出てて寝てるのよ。ごめんね」しか言わず、オレも何も聞けなかった。 

あの影が手を振った日から、一ヵ月ほど経った頃、Aの転校を知らされた。 
皆に挨拶もなく、急に転校するなんておかしい、と思ったのを覚えてる。 
誰も理由を知らないし、教師達も教えてくれなかった。 

それから10年近く経った今、Aとは全く音沙汰無し。 
最近になって、昔あそこで木登りをしていて、落下して亡くなった子供がいた、と聞いた。 
木を切ろうにも、工事中の事故が多かったり、工事の器具が動かなかったりで、全然進まなかったそうだ。 
それが本当かどうかも分からないし、Aがどうなったのかも分からない。
Aのその後と、繋がりがあるのかどうかさえ。

子供の影は、存在に気付いてほしかったんだろうか? 
あの時、オレがもし手を振っていたらどうなってたんだろう… 
そう思う事が今でもたまにある。

最初に書くけど、俺には霊感なんてものは全くなかった。 
今回初めて見たんだよ。 
自分のサイトに載せようかと思ったけど、俺はここによく来るし、なじみもあるし、
話の流れも向いてるからここに書く。 
長くなると思うけど、興味のある方は読んでみてください。

俺は都内で、仲間と趣味でバンド活動をしてる。ただのコピバン(ハードロック)だけど。 
別に、お客さん集めてお金を取って…って趣向じゃなく、完全に自己満足でやってるコピバン。
コピバンオンリーのイベントにしか出ないし。 

そんな感じで、先月(11月)にも簡単なライブをやったんだけど、 
その時お客に混じって、ヘンなおばさんがいたんだ。 
黒いボサボサの長髪で顔色の悪い、眼の下に大きなクマを作った、口をヘの字に曲げた、
不健康そうなちびで小太りのおばさん。 

出番も終わった俺は、他のバンドを見ながらビールをのんでたんだけど、
俺のそばにそのおばさんが居て、なにか取り巻きと話してる。 
ちょっと耳を傾けていたら、こんな話だった。 
「ライブハウスを立ち上げようとしていた旦那が、突然の病気で去年の冬に亡くなった。 
 志し半ばで死んでしまった旦那の弔いとして、1周忌の追悼イベントを自分が開催する。 
 バンドが好きだった彼のためになればいい」 
なかなか芯の強い人だな。と、俺は率直にそう思った。 


そのとき、何気なく上を見上げたんだ。 
ライブハウスってだいたい地下にあるから、 
天井には空調とか、色んなパイプがむき出しになってる場所が多いんだ。 
その白くて太いパイプと細いパイプの隙間!!!今も書いててゾッとした。
顔を見たよ俺は。なんか書いててイヤな気分だな… 
黒くて無表情な、口を半開きにした…あんまり思い出して書きたくないからこのへんで。 
つまり、顔だった。
ビール落とした。誰にも、何も言えなかった。 
一瞬、演奏が始まった音に気をとられたら、もう消えてた。 
目を離したわけじゃなかったんだけど… 
すぐに錯覚だ、自分の思い込みだ、と思って気持ちを落ち着かせた。 

そして次の週末に、バンドのメンバーの一人と会って、飲んでいた時のこと。 
(彼とは古い付き合いなので、よく二人だけで飲むんです)
ふとそいつの口から、会場に居たそのおばさんの話が出た。 
俺らのようなハードロックのコピバン業界では、結構な有名人だったらしく、
バンドやライブが好きで、まだ高校生の娘と一緒に、どこにでも顔を出しているらしい。 
(俺らのライブの日にも娘は居たらしいが、俺は確認できなかった)
しかし、この人にはちょっと問題があって、
音楽が好きでライブハウスに来るのではなく、
ライブをやる人間(バンドマン)との親交を目当てに、首を突っ込みに来るらしいのだ。 
バンドやってるやつからしたらさ、 
自分のバンドを盛り上げていきたい気持ちで、いっぱいな奴だってたくさん居るわけで、 
お客さんを邪険に扱うことなんて、出来ないんだよね。
こういう人ばかりじゃないけど。 
そんな腰の低い人たちに、自分の自慢、娘の自慢、とにかく自慢を垂れ流すことで有名なおばさん、
ということだった。 

ところが、そいつが言うには話がもう一筋あって、それが俺が聞いた旦那のことだった。 
病気で死んだ、バンドが好きだった旦那。 
実はこれが全くのうそっぱちで、どうも病気ではなく自殺らしい。 
その自殺に到った経緯というのが、またすさまじかった。 

旦那が会社をリストラされて、退職金とバイトで何とか食いつないでいた去年、 
そんな時期に、おばさんのライブハウス周りは熱を増してしまい、
娘と毎日、車でライブハウスを行脚する生活。 
家に車は一台しかなく、それをおばさんが乗りっぱなしなので、
車好きでドライブが趣味の旦那は、乗ることができなかった。 
家にお金はないのに退職金を使って、ライブどころか打ち上げまで出てくるおばさん。 
朝まで飲み、昼前に帰り、夜まで寝、またライブハウスへ行く。 
慣れないバイト先での仕事、インスタントの食事、家に居ない家族。 
旦那は鬱病になった。
そして、200キロも離れた場所での、どこぞのバンドのライブに参加するために、
家を出ようとするおばさんを、旦那が引き止めたらしい。 
「行かないでくれ、寂しい」と。 
でもおばさんはそんな旦那を振り払い、車を走らせそのライブに参加したらしい。
そして次の朝、おばさんと娘が帰ってくると、警察から連絡が入っていたとのこと。 
旦那さんが自殺した、と。
(何でこんなに詳しく知っているかは、おばさん本人が数人に事実を喋ったのが流れているから) 

俺はそいつのこの話を、相槌うちながら聞いてたけど、 
もう、ほんとに、気が気じゃなかったよ。 
俺が見たのは錯覚かもしれないけど、もしかしたらその旦那かもしれない。 
だって、おばさんの話を盗み聞きしてるときに見たんだから。 

このおばさんは自分のHPを持っていて、ご丁寧に『追悼ライブやります』って書いてある。 
『愛とは』などと、説教くさいことも書いてある。 
この追悼ライブの出演者には、事実は何も聞かされていないらしい。 
『ライブに行かないでくれ』といって死んでいった旦那。 
追悼ライブだと!!???フザけるな!!!! 
このおばさんは旦那の死すらバカ騒ぎ、酒のネタに利用したいのか?? 
人間じゃない。
俺はパイプの間から見た顔より、このおばさんのほうがよっぽど怖い。 

この話は事実だし、実際12/10(明日)より二日間、このイベントは東京某ライブハウスにて開催される。 
しかし、異例の「直前での出演予定バンド全員キャンセル」をくらっても 、(きっとこの話が流れたんだろう)
どこからかまた、何も知らないバンドをかき集めて開催するという。 

限りなく人間じゃないけど、ユウレイよりよっぽど怖い人間の話。 
長くてすみませんでした。終わりです。



ちなみに、話中には『らしい』と書きましたが、きちんと裏は取りました。
その辺の話をあまり細かくお話したり、断定で書いたりして、
人物特定がなされてしまうのも困ると思いまして。すみません。 
でも、人から聞いた話を確認もせずに信じて、他人を恨んだり憎んだりは、たしかにイクナイ!と思います。

顔を見ただけ(かもしれない)の俺には関係のない話かもしれませんが、 
人間としてちょっと憤りを感じたもので、興奮した書き込みになってしまいました。 
すみませんでした。

友人のNから聞いた話です。 

Nは大きくて古い団地に住んでいたのですが、
小さい頃に同じ団地だった子で、カナコちゃんという友達がいたそうです。 
カナコちゃんちとNの家は何件か離れていましたが、同じ階なので、
カナコちゃんの家に良く遊びに行ったそうです。 
カナコちゃんちの居間の壁にはお面が飾ってあり、見たところ、
地方へ旅行した際に、旅の雰囲気に酔って買ってしまった類の様で、
他の置物と一緒に飾ったまま忘れ去られ、放置されている感じだったそうです。 
しかしNはそのお面がとても怖くて、カナコちゃんはよくあんな怖いお面のある家に住めるなー、
と思っていたそうです。 
カナコちゃんも、そのお面をとても怖がっていたそうです。 
それはカナコちゃんが、直接Nに「お面が怖い」と言ったのではなく、
カナコちゃんがそう言っているところを見たそうです。 


それは、ある夏の日だったそうです。 
カナコちゃんちには冷房がなかったため、
風の通りを良くする為、玄関のドアにカマボコの板を挟み、少しだけドアを開けていたそうです。 
Nがカナコちゃんの家の前をを通った時に、
玄関の隙間からチラッとカナコちゃんが立っている姿が見えたので、話しかけようとしたら、 
家の中からカナコちゃんのお母さんが、
「ちょっと!なにボーッとしてんのっ!そこをどいてよっ!通れないじゃない」と怒っている声が聞こえて、
続いてカナコちゃんが、泣きながら「グスン・・・グスン・・お面の人・・・怖いの」と言っていたため、
なんかマズイとこ見ちゃったなーと思ったNは、その場を足早に通りすぎたそうです。 
しかしNは、その時に何か疑問を感じたそうです。 

その日以外でも、内容は聞こえなかったそうですが、
たまに玄関で、カナコちゃんの泣き声とお母さんの怒鳴り声を、聞いたことがあったそうです。 

ある日、Nがカナコちゃんと外へ遊びに行くため、カナコちゃんちへ迎えに行ったときのことです。 
カナコちゃんが家の中で鍵か何かを探していたため、Nは玄関に入って待っていたそうです。 
かなり狭い間取りなので、玄関からは居間まで丸見えだそうです。 
昼間でも日当たりが悪いために、家の中は薄暗く、
その日カナコちゃんのお母さんは、家に居なかったそうです。


Nがふと、居間にある例のお面を見ると、
お面に何か黒い物が被っていて揺れているなー、と思ったそうです。 
ジーっと見てみると、それは長い髪の毛だったそうです。 
サッシから吹く風に髪の毛が揺れていて、まるでお面から生えた髪の毛のようだったそうです。 
Nは、目がそらせなくなりジーっと見ていると、また髪が風に揺れて、お面の顔が現れた時・・・。 
お面の目がゆっくりとNの方を見て、口角がゆっくりと上がり、ニターっと笑ったそうです。 
その時、Nは周りの景色が見えなくなり、音も聞こえず、
ただ暗闇で、Nとお面だけが目を合わせていたそうです。 
そしてお面は、徐々にNの方へと顔の向きを変えて、正面にNと向かい合ったそうです。 
Nはこの後、まさかお面が近づいてくるんじゃ!っと思ったそうです。 
Nは身動きが取れず、自分がカナコちゃんちの玄関に立っていることも忘れて、ただ恐怖を感じていたそうです。
お面は案の定、徐々にNへと近づいてきて、
なぜか近づく度に、少しづつお面の顔から人間の顔に変わったそうです。 
お面はどんどん距離を縮めてきて、肌の質感なども見て取れる距離にきたそうです。 
Nはもうダメだと思い、お面が目前に迫るのを見ていたその時、「ちょっと!」っと声がしたそうです。 
ハッと気付くと、カナコちゃんがNの足元で窮屈そうに靴を履いていて、 
「なにボーッとしてんの!そこをどいてよっ!通れないじゃない!」と言っていたそうです。 
Nは夢が覚めたように、現実に戻ったそうです。
恐怖で足がガクガクして、涙をポロポロ流して泣いていたそうです。 
その時にカナコちゃんは、ぴくっと動きを止め、Nの顔を見たそうです。 
カナコちゃんは自分が母親と同じことを言っていたことに気付き、
そして、Nに何が起きたか察したみたいだったそうです。 

そしてNは、疑問が解けたそうです。 
どうしてカナコちゃんが泣いていたあの時、
『お面が怖い』と言わずに、『お面の人が怖い』と言っていたのかを。 


友人Nの住む団地はとても古く、住人が沢山いるため、
エレベーターは北側と南側に、二台ずつ設置されていました。 
Nの家は、南側のエレベーターを使用した方が近いのですが、
学校や駅へ行くときなどは、北側のエレベーターの方が通りへ面していて近いため、
普段は北側を使っていたそうです。 

その日、Nは家へ帰ろうと、エレベーターを待っていました。 
たまたまその日は郵便ポストの中を見たかったので、
普段は使わない南側のエレベーターを、使うことにしたそうです。 

エレベーターのボタンを押し、ポストから郵便物を取り出してエレベーターを待っていると、 
二台のうち右のエレベーターのドアが、ガーっと開いたそうです。 
Nがエレベーターへ乗り込み、ドアを閉めるボタンを押した時、 
高校生くらいのお兄さんが、閉まりかけたドアに慌てて入ってきたそうです。 

Nはその時、
自分がわざとドアを早く閉めて、他の人を乗らせないようにしたと思われたら嫌だなー、と思ったそうですが、
エレベーターを待つ間、ホールにはN一人しかいなく、
誰かが走ってくる音さえすれば、待っててあげたのに・・・と思ったそうです。 
そのお兄さんは慌てて駆け込んで来た割に、足音が全くしなかったそうです。 
きっと、うちと反対側のポストの陰にいて見えなかったのかも、と思い、
Nは取り出したチラシ類をめくっていました。 

Nの家の階に着き、エレベーターを降りようとした時です。 
そのお兄さんが突然、開いたドアの前に立ち、Nが降りれないように出口を塞いだそうです。 
お兄さんのその行動が全く理解できず、Nはお兄さんの顔を見上げたそうです。 
そのお兄さんの目は、一重でとても細く、感情が無く無表情で、生白い肌と狭い肩幅。 
なぜかお兄さんの肩が震えている。お兄さんは手を前に合わせている。お兄さんは手に何か持っている。 
お兄さんの手へと視線を下げると、Nは血の気が引いたそうです。 
お兄さんは変質者で、自分のワイセツなものをNに見せていました。 
Nはどうしよう、どうしよう、と慌てふためき、そして大声を上げることを思いついたそうです。 
「帰りたいっ」
緊張し過ぎて、思うように大きな声が出なかったそうです。 
普通は『助けて!』とか叫ぶのですが、とっさに口に出たのは『帰りたい』だったそうです。 
もう一度Nは叫びました。
「帰りたいっ!!」 

今度はホールに響くような声が出たそうです。 
叫ぶと同時に、お兄さんはドアの前からサっと逃げ、非常階段の鉄のドアを力任せに開けると、
よくあんな弱そうな体で・・・と関心したくなるほどの素早さで、姿を消したそうです。 
  
それから数年が過ぎました。 
Nはその事件を、たまに友達同士で、冗談を交えて話したりすることもありましたが、
ほとんど記憶から薄れていたそうです。 

ある日家族で車で出掛け、駐車場から近い南側のエレベーターに乗ることになったそうです。 
Nは事件のことを忘れていましたが、南側のエレベーターには抵抗があり、
その事件以来、一人で南側のエレベーターを使うことはありませんでした。 
その日は家族がいたので、南側でも安心しながら、ホールでエレベーターを待っていたそうです。 

家族でエレベーターを待っている間に、重たそうな荷物を持った男性が、ヨタヨタ歩いて来たそうです。 
エレベーターが着いて、最初にN家族が乗り込んだそうです。 
Nはドアを開けるボタンを押して、男性が入ってくるのを待ってあげていました。 
そして、その男性がヨタヨタとエレベーターの中へ入ってきた時。 

Nは男性の顔を一目見て、雷を打たれたような恐怖と、ショックを感じたそうです。 
知らない人なのに、なぜかこの男の人が怖い!すごく怖い!と。 
その男は無愛想な声で、「すみません、三階をお願いします」とNに言い、
ハッとしたNはすぐに三階を押したそうです。 
その時Nは本能的に、自分の顔をこの男に見られてはいけないと感じて、下を向いていたそうです。 

Nは家に着いて、男のことを色々考え、ようやく思い出しました。 
やはり例のワイセツ男でした。
もうあれから何年もたっていて、男の顔も数秒しか見ていなかったというのに。 
例の出来事は思い出せなくとも、あの時の恐怖だけは、男を一瞬見てすぐに思い出すとは・・・
と、自分の潜在能力に関心したそうです。 

それから又、しばらくたった時のことです。 
突然、カナコちゃんの話に変わりますが、
カナコちゃんの母親は、カナコちゃんを連れて団地を出たそうです。 
そう遠くはない町へ引越したそうです。 
カナコちゃんの両親は、昔からうまくいっていないようでした。 
結局、カナコちゃんのお父さんだけが、団地に残ったそうです。 
カナコちゃんは、あまり両親の不和話をしたがらなかったため、
Nはカナコちゃんちが、別居したのか離婚したのかわからないままでした。 

ある日、Nが一階でエレベーターを待っていた時、久々にカナコちゃんのお父さんに会ったそうです。 
カナコちゃんのお父さんは、外の方を見たりホールをキョロキョロして、
誰かを探しているみたいだったそうです。 
Nもカナコちゃんのお父さんも同じ階に住んでいるため、エレベーターが着き二人で降りたそうです。 
カナコちゃんのお父さんが、自宅のドアの前を見て、 
「あっいたいた!ここにいたのか~下にいるのかと思っちゃったよ」と、誰かに声をかけたそうです。 
見ると、カナコちゃんちのドアの前に、Nの知らない女の人が立っていたそうです。 
女の人が振り向いたとき、Nはあの日と同じ、雷を打たれたような恐怖とショックを感じたそうです。 
今度は恐怖と同時に、すぐに思い出したそうです。 
その女の人は、Nが幼い頃の夏の日、カナコちゃんちの玄関で見た『お面の人』だったそうです。

Nは中学生になり、カナコちゃんとは年賀状や文通で、近況を話したりしていたそうです。 
お互い昔より大人になったせいか、カナコちゃんは両親のことを、Nに話すようになったそうです。 
カナコちゃんのお父さんは、
カナコちゃんのお母さんと結婚する前から、ずっと付き合っている女性がいたそうです。 
しかし、カナコちゃんのお母さんが妊娠したため、その女性と別れて、
カナコちゃんのお母さんと結婚したそうです。

その女性は納得せず、怒り狂ったそうです。 
カナコちゃんのお父さんは、その女性とは別れたと周りに言っていましたが、
陰ではその女性と交際を続けていたそうです。 
その女性の、カナコちゃんのお父さんに対する愛情が、ものすごかったようです。 
お父さんは、その執念に負けたようなところもあったそうです。 

例のお面は、カナコちゃんのお父さんとその女性が、二人で旅行へ行ったときに買ったそうです。 
旅行は、カナコちゃんのお母さんの妊娠が発覚して、お父さんの結婚を目前に控えた頃に行ったそうです。 
その女性は、旅先の土産売り場でそのお面を選ぶと、 
「お互いにこのお面を買い、それを交換しましょう。
 そして交換したお面を、私だと思って過ごして下さい。
 私も、このお面をあなただと思って暮らしていきます。
 だから結婚しても、このお面を必ず部屋に飾って置いて下さい」
と言ったそうです。

その女の報われなかった愛は生霊となり、お面に乗りうつり、
お父さんの手によって、カナコちゃんちの居間に飾られたそうです。

小屋が無くなってから数日後、Jの友人(A)と共通の友人(B)とで集まった時に、
Bが「Cから聞いたんじゃが、なんでも夜中に、鬼婆の霊がCの家の戸を叩きよるらしいで」と話した。 

家に帰り、その事を父に伝えると、
「人は死んだら戻って来るでな。なーに、49日が過ぎれば無事成仏するで、気にする事ぁねえ」
「でも、なしてCの家に戻るのね?自分の家に戻りゃあええのに」
「梅さんは少し変わっていたでな。帰る家を間違がえてるだけだで」とアッサリ言ったので、
Jは「なんだ、あたりまえの事なのか」と思った。 

ところがそうでは無かった。
どうもCの親が、くじ引きか何かで梅がいた小屋を燃やす役目になってしまい、
それが梅の恨みを買ってしまったらしいのだ。
それは近所の大人達が、
「Cの家に、またイブシがやって来しゃったらしい」
「小屋を燃やしたもんで、怨みを買うたんじゃろ」
と話をしていたのを聞いたからだ。 

このイブシ?(聞いた事のない言葉だったので忘れてしまったらしい)という言葉は、
この村だけのいわゆる『隠語』というやつで、恐らく『幽霊』の意味ではないかとじっちゃんは言った。
大人達は、「梅の霊の事は村民以外には話すな。話すと霊がその人の前にやって来る」と言うので、
それを恐れた子供達は、誰1人として話さなかった。
また、大人達は隠語を使う事により、うっかり他の場所で喋っても、村の恥部が他人に漏れずに済む。
とにかくそこの村民は、自分の村を守る事に必死だったらしい。 


夜な夜なやってくる梅の霊に、Cの家族は疲れてしまったのか、
「わしらも子も眠れんで困っとる。家を出るしか無かろうか?」と、Jの家に相談にやって来た。 
Jの父は、
「しばらく家を捨てるしかあるまい。
 最悪、あの家は一度ばらしなすって、作り直しゃあええ。
 その間は家に住みなっせい」 
こうしてCの家族は、Jの家に同居する事に。

さっそく自分の部屋で、JはCにこう聞いた。
「なぁなぁ、Cは鬼婆のお化けを見たんか?」
「見とらん。ただ、家のドアを叩く音が毎晩するんじゃ」
「風とかじゃ無かろうか?」
「知らん。
 最近は耳に布切れ押し込んで寝てまうで、音は聞こえんが、
 一晩中電気がつけっぱなしなもんで、全然眠れんわ」 

「おい。今日のイブシ除けは済みなすったか?」と、父が母に指図をする。
イブシ除けとは、いわゆる『魔除けの一種』で、玄関の軒先に、スルメや餅や果物等をぶら下げておくのだ。
この村では、人が死ぬと毎度行う儀式だった。 
「朝になると、吊るしておいた食い物が無くなっとるんじゃ」とCは言うが、
「いや、猿に持っていかれたんじゃろうて」とJは否定した。 

それでもJは不安だった。
「Cの家族が家に来た事で、鬼婆も家にやって来るんじゃなかろうか?」と、嫌な予感があった。

そして夜、Jの隣ではCがぐっすりと寝ている。
耳から詰めた布が、はみ出しているのが可笑しかった。 
下の階では、ガヤガヤと大人達の声がする。
しばらく天井をボーッと見ていると、「ドンドンドン」と太鼓のような音が響いた。
同時に大人達の声も、一瞬ピタリと止んだ。 
Jの予感は適中した。梅が家の玄関を叩いてるのだ。
Jはそう思うと恐くなり、ユサユサとCを揺り起こした。
「ううん・・・なんねー」と寝ぼけるCに事情を説明。
共に震えながら、大人達のいる1階に降りて行く。

大人達はボソボソと何かを喋っている。
Jが怯えながら「お父・・」と言うと、「気にする事ぁねえで、さっさと寝なっせ」。
またガヤガヤと、大人達は別に気にする事なく、普通にビールを飲みはじめた。 

次の朝、Cと一緒に玄関を出ると、魔除けの食い物が無くなっていた。
「な?俺の言う通じゃろ?」とCが言う。
その事を親に聞くが、「あれは朝1にしまい込むでな」と答えるだけであった。 

そしてソレはしばらくの間続いたが、ドアをノックする音がしなくなると、
「ああ、49日が終わったのだな」と思った。 
その村では、49日が過ぎるまで墓を作らなかった。
遺体は火葬か土葬をしておき、49日が来るまでは「魂を遊ばせておく」そうだ。 

村のはずれには集合墓?があり、村人はここに埋められ墓が作られる。
しかし、梅の墓は別の場所に作られる事になった。 
「御先祖様の墓とキ○ガイの墓を一緒にするのは申し訳ない」という理由だそうだ。 
死んでもなお村人として扱われない梅に、Jは少し同情したが、
怒られるのが恐いので、口にする事はしなかったそうだ。 

そして、梅の墓は川原に作られた。
墓といっても1、2本の縦長の板で出来た簡易な物で、
さらにその回りには囲いも何も無く、「ただポツンと立っていた」そうだ。
しかも、川のすぐそばに立てられている為、ちょっと強い雨が降ると、増水した川に流されてしまう。
実際梅の墓は、1ヶ月もしない内に流されてしまった。 

流されるという事は、人に忘れられてしまう。まさに『水に流す』のである。
流されてしまってはしかたがない。俺達は悪く無い。
そんな『自分勝手な不可抗力』という名の殺人や非道が、その村ではあたりまえに行われていたらしい。 

身内がそばに居ないというだけで、人1人が村ぐるみで消されてしまう恐怖。
そして、それをあたりまえと思う大人達に、Jは恐怖した。
「自分も大人達の機嫌を損ねたら、何されるかわからん」と・・・
だから、その村では大人が絶対であり、いわゆる『不良』と呼ばれる子供もいなく、
子供は大人達の従順者であった。 

「村落という閉鎖的な場所で、独自的な文化を持つというのは恐ろしい事で、そこでの常識は常に非常識だった。
 あのまま村で大人になったら洗脳されて、あの大人達と同じになっていただろう。
 だからお前は、たくさん友人を作って、色んな人の意見に耳を傾けて、
 常に自分の行動に間違いが無いか疑問を持て」
と、死んだじいちゃんは語ってくれた。


じっちゃま(J)に聞いた話。 

昔Jが住んでいた村に、頭のおかしな婆さん(仮名・梅)が居た。 
一緒に住んでいた息子夫婦は、新築した家に引っ越したのだが、
梅は「生まれ故郷を離れたく無い」と村に残った。
しかし他の村民の話では、「足手まといなので置いて行かれた」そうだ。 

その頃から梅は狂いはじめた。
普通に話しをしているかと思うと、いきなり飛びかかり腕に噛み付く。腕の肉が削り取られる程に。 
そんな事が何度かあると、
「ありゃあ、人の肉を食ろうておるんじゃなかろうか」と、村中で噂が広まった。
まだ子供だったJは、「なぜ警察に言わんのね?」と言うが、
「村からキチ○イが出るのは、村の恥になる」と大人は言い、
逆に梅の存在を、外部から隠すそぶりさえあったという。
風呂にも入らず髪の毛ボサボサ、裸足で徘徊する梅は、常に悪臭を放ち、日に日に人間離れしていった。 


村民は常に鎌等を持ち歩き、梅が近付くと「それ以上近寄と鎌で切るぞ」と追い払う。

そんなある日、2、3人で遊んでいた子供達が梅に襲われ、その内の1人は小指を持っていかれた。 
襲われた子の父母は激怒。梅の家に行き、棒で何度も殴りつけた。止める者は誰1人いなかったという。
「あの野郎、家の子の指をうまそうにしゃぶってやがった」

遂に梅は、村はずれの小屋に隔離されてしまう。
小屋の回りはロープや鉄線でグルグルに巻かれ、扉には頑丈な鍵。
食事は日に1回小屋の中に投げ込まれ、便所は垂れ流し。
「死んだら小屋ごと燃やしてしまえばええ」
それが大人達の結論であった。 
無論子供達には、「あそこに近付いたらいかん」と接触を避けたが、
Jはある時、親と一緒に食事を持って行った。

小屋に近付くと凄まじい悪臭。中からはクチャクチャと音がする。 
「ちっ、忌々しい。まーた糞を食うてやがる」
小屋にある小さな窓から、おにぎり等が入った包みを投げ入れる。
「さ、行こか」と、小屋に背を向けて歩き出すと、
背後から「人でなしがぁ、人でなしがぁ」と声が聞こえた。 


それから数日後、Jの友人からこう言われた。
「おい、知っとるか。あの鬼婆な、自分の体を食うとるらしいぞ」
その友人は、親が話しているのをコッソリ聞いたらしい。 
今では、左腕と右足が無くなっている状態だそうだ。

ある日、その友人とコッソリ例の小屋に行った。
しかし、中から聞こえる「ヴ~、ヴ~」との声にビビリ、逃げ帰った。 

「ありゃあ、人の味に魅入られてしもうとる。あの姿は人間では無い。物の怪だ」
親が近所の人と話しているのを聞いた。
詳しい事を親に聞くのだが、「子供は知らんでええ」と何も教えてくれない。

ある夜に大人達がJの家にやってきて、何やら話し込んでいる。
親と一緒に来た友人は、「きっと鬼婆の事を話しておるんじゃ」。
2人でコッソリと1階に降りて聞き耳を立てるが、何を言っているのかよくわからない。
だた、何度も「もう十分じゃろ」と話しているのが聞こえた。 


次の日の朝。
朝食時に、「J、今日は家から出たらいかん」と父が言うので、「何かあるんか?」と聞くと、
「神様をまつる儀式があるで、それは子供に見られてはいかんのじゃ」と説明した。

しかたなく2階から外を眺めていると、例の小屋の方から煙りがあがっているではないか。
「お父、大変じゃ!鬼婆の小屋辺りから、煙りが出ておるぞ」
しかし父親は、「あれは畑を燃やしておるんじゃ。下らん事気にせんと勉強せい!」と、逆に怒られた。 

それから数日は、相変わらず小屋に近付く事は禁止されていた。
しかし、ある日友人とコッソリ見に行くと、小屋があった場所には何も無かったそうだ。 

一週間も前かな?そんなに前じゃなかったかも。 
兎に角暑い日だったなぁ。蝉がミンミン鳴いていて、木陰にいてもとても暑かったんだ。 

「なぁ、たっくん。実は良いとこ見つけたんだ」 
亮は垂れたアイスがついた指をしゃぶりながら僕に言った。 
「いいとこ?」 
「そっ、いいとこ。 でもさ、一人じゃ駄目なんだってさ」 
亮はアイスのバーに当たりと書いてなかった事に腹を立てたのか、 
バーをぼきりと折ると、思いっきり投げつけた。 
「なんかさ、スッゴイお宝があるらしいんだよ。 
 でもさ、絶対に二人じゃないと手に入らないんだって」 
亮は僕の目を下から覗いた。 
僕に一緒に行って欲しいって言っているんだ。 
僕と亮はどんな時も、二人一緒だ。 
喧嘩したって、次の日には笑って仲直りできるんだ。 

「んじゃさ、僕と行こうよ」 
そう言うと、亮は満面の笑みを浮かべた。 
「もっちろんさ。だからたっくんにしか言ってないもん」 
「よし、どうせ今日は面白いテレビもないからさ、これから行こうよ」 
ホントは五時から始まるアニメが見たかったけど、 
クラスメイトの誰かがきっと、ビデオにとっているはずだ。 
それよりも、この好奇心そそられる冒険の事で頭が一杯だった。 

「南の山の麓の森あるじゃん?そこにさ、古い洋館があるんだよ」 
亮の詳しい説明によると、森の大分奥まった所に、誰も住んでいない洋館があるらしい。
南の山って言うのは、松茸だか何かが取れるとかで、一般の人は立入禁止になってるんだ。 
だからここら辺の人は、絶対に入っちゃいけないことになってる。 
「でもさぁ…。南の山に入ってもいいのかなぁ?」 
「大丈夫、大丈夫。怒られたら俺の所為にしていいから」 
亮は良くこの台詞を使う。 
でも、実際亮の所為にしても、結局僕も怒られちゃうんだ。 
「でも…」 
「ぐずぐずしてたら、他の誰かにお宝取られちゃうよ!!」 
亮がだだをこねだしたら、もう少しで怒り出すサインだ。 
「わかったよ、行くよ、行く。二人じゃないと駄目なんだし」 

森はひんやりとしていて、今日みたいな日には心地よかった。 
迷いそうでちょっと心配だったけど、亮はズンズン先へと進んでいった。 
亮がいるから安心だ。亮は野生児って感じだもんな。 
亮は途中何度かポケットから紙屑を出すと、道ばたに落としていった。 
「ねぇ、何してるの?」 
「これはね、帰りに迷ったりしないように、印を残してるんだよ」 
なるほど。これなら暗くなっても、これを辿れば迷わないな。 

一時間も歩いただろうか。開けた所に出た。 
目の前には、何とも言えない雰囲気の洋館がそびえていた。 
「たっくん…、別に無理して入らなくてもいいんだぜ?」 
ここまで来て何を言ってるんだろう、と思ったよ。 
亮は腕っ節は強いし、青大将だって素手で捕まえられるけど、 
幽霊とかお化け屋敷とか、そう言うのは大の苦手なんだ。 
僕はそう言うのは全然平気。むしろ大好きさ。 
「なんだよ、亮ちゃん。怖くなったのか?」 
ちょっとバカにした様に言うと、亮はむきになって怒りだした。 
「何言ってるんだよ!!怖いもんか!!行くぞ…」 

大きな玄関前に行くと、ドアになにやら書かれている事に気づいた。 

『二人ずつお入り下さい』 
本当に二人で入らないと駄目なんだ。 
実際こんな所があるなんて、ちょっと信じられない感じだった。 
誰が何のためにここを用意したのか判らないけれど、入ってはいけない所で無いのは判った。 
「よしっ…行くぞ、たっくん」 
「うん」 
ぎぃぃ。きしむような嫌な音を立ててドアが開いた。 
中は森の中以上にひんやりとしていて、寒気すら感じた。 
なんとも言えない埃とカビの匂いが鼻をついた。 
流石の僕も、ちょっと帰りたくなった。 

「暗いね…ホントにお宝あるのかなぁ?」 
「た、たっくん、怖いんじゃないのか?」 
今度は僕がバカにされた様な気がした。 
でも本当は、亮の方が怖がっているって事はわかっていた。 
「大丈夫だよ、亮ちゃんと一緒だからね」 
いつもの亮に戻ってくれないと、僕も不安になってくる。 
僕は亮に頼ってる様に感じさせて、亮の気持ちを盛り上げた。 
それはとても上手くいった様だった。 
「そうだよね。二人一緒だもんね」 
亮が力強く歩き出した。 

館の中は本当に薄気味悪かった。 
至る所に蜘蛛の巣が張っていて、それにかかる度に、気持ち悪くて悲鳴をあげたくなった。 
でも悲鳴をあげてしまえば、二人とも挫けてしまいそうだと思い、精一杯我慢したんだ。
亮も多分、同じだったと思う。 
所々の壁に掛けてある絵も、何だかよくわからない絵で、 
紫や赤や黒が混じったような、気持ちの悪い物だった。 
僕等は出来るだけそれが目に入らないように、前だけ向いて歩いた。 

途中のドアを何度か開けたけど、何も見つからなかった。 
ほとんどの部屋はがらんどうで、塵と蜘蛛の巣しかなかった。 
そろそろ諦め様かとしていた時、その部屋についた。 
これまでの部屋と違い、そこには色んな物が置いてあった。 
本棚、机、ベッド。壁には世界地図が掛かっていた。 
「ねぇ、亮ちゃん。この部屋、何かあるかもよ」 
興奮した口調で僕は言った。 
「よしっ、お宝見つけよう!!手分けして探そうぜ」 
亮は机。僕は本棚を探すことにした。 
ホントは、ベッドの上に乗ってる物を調べろっていわれたけど、本棚の方が何かありそうだからと断った。 
でもホントは違うんだ。ベッドの上のものは何か恐ろしげで、近づきたく無かったんだ。 

二人とも黙々と調べたけど、大した物は見つからなかった。 
本棚に一杯ある本も、なんだか判らない言葉で書いてあって、 
大人達は喜びそうだけど、僕等にとっては何の価値も無かった。 

結局部屋中調べたけど、何も見つからなかった。 
残すはベッドだけだった。亮も、嫌な雰囲気がしてるのは気づいてる様だった。 
ベットの上にかかった、ピカピカ光った青のベルベット。 
それは奇妙に盛り上がっていて、その下に何かあるのは判っていた。 

「イチニのサンで、この布を引っ張ろう」と亮が言った。 
「うん。僕こっち端持つから、亮ちゃんそっち持って」 
僕は逃げ出す準備をしていた。その下に何があるか、大体予想はついていた。 
イチニのサン。 
その瞬間、力一杯布を引くのと同時に、目を堅くつぶり顔を背けた。 
亮の悲鳴が聞こえた。僕は目をつぶったまま、ドアまで駆けていた。 

パニックになった亮がわぁわぁと叫ぶ。 
ふと、その叫び声が止まる。次の瞬間… 
「宝だ!!宝を見つけたぞっ!!」 
しまった!!臆病な所を見せたばっかりに、亮に先にお宝を見つけられてしまった。 
僕は勇気を振り絞ると、ベッドへと目を向けた。 

想像した通り、ベッドの上には死体が転がっていた。 
しかし、思ったより大した事はなかったんだ。 
前に何かの本でみた、ミイラみたいだった。 
それはどうやら、僕等と同じ年くらいの子供の様だった。 
その首にはきらきらと金色に輝き、目の部分に真っ赤な宝石が埋め込まれた、
鷲の形のペンダントがかかっていた。 

「た、たっくん。あのペンダント取ってよ」 
亮が震えた声で言った。亮はこう言うのが苦手だからなぁ。 
でも、僕だってそんなの嫌だよ。 
「亮ちゃんが見つけたんだろ?亮ちゃん取れよ」 
「ふ、二人で協力しなきゃ駄目なんだよ」 
確か、二人で協力しないと宝は取れないって話だったな。 
でも、これなら別に一人で取っても取れるじゃないか。 
よぉし、それなら僕が取って、僕の物にすればいいんだ。 
僕はおもむろに手を伸ばし、鷲のペンダントを掴んだ。 
その弾みで、死体の少年がこちらを向いた。 
心臓が口から飛び出しそうになった。 
でも、震える手で掴んだ宝は決して離さなかった。 
慎重に、慎重に、死体に触れないようにそれをはぎ取った。 
「やった!!やったぞ!!お宝ゲットだぜっ!!」 
手にした途端、さっきの怖さなんて吹き飛んで、嬉しさ一杯になった。 
高々とペンダントを掲げ、跳ね回った。
まるで、僕一人しか居ないかの様に、有頂天になってしまった。 


そんな僕を見て、亮が怒りを顕わにした。 
「俺が最初に見つけたんだ、俺によこせっ!!」 
「そんなのおかしいよ!!実際取ったのは僕じゃないかっ!!」 
僕は亮の理不尽な言い分に、心底頭にきたんだ。 
だってそうでしょ?アイツは口先ばっかりでなんにもしなかったんだ。 
びびって何にも出来なかったくせに、美味しいとこだけ持っていくつもりなんだ。 
「実際取ったからってなんだよ…。大体ここ行こうって言ったのも俺だぞ」 
普段大人しい僕が怒鳴ったりしたもんで、亮はビックリした様子だった。 
でも、腕っ節に自信がある亮は、僕相手には引こうとしなかった。 
あんなに怖がっていたくせにだ。 
「よこせよっ!!」 
亮は僕の手に握られたペンダントをむしり取ろうと、力一杯引っ張った。 
嫌だと口では言わずに、僕も精一杯力を入れた。
その時、亮の左手が弧を描いた。
光の筋がパッと描かれたと思うと、僕の腕から力が抜けていた。次の瞬間、鋭い痛みが襲ってきた。 
亮は隠し持っていたカッターナイフで、僕の腕を斬りつけたんだ。 
「痛っ!!酷いよ…酷いよ亮ちゃん」 
亮が呆然と僕を見つめていた。 
「ご、ごめん…。本気じゃなかったんだよ…」 

亮の目は、何処か怯えている様だった。 
どうやら、チョット脅かしてやろうってくらいの気持ちだったらしい。 
「でも、たっくんが悪いんだぞ。素直に渡さないからっ!!」 
亮は僕の所為にした。僕は全然悪くないのに。 
悲しかったけど、泣かなかった。泣いたら負けだから。 
痛くて、悔しくて、情けなかった。 
でもこの時、ペンダントなんてどうでもよくなったんだ。 
亮は僕を傷つけてまでこれを欲しがってる。 
僕はこんな物の為に、人を傷つける気なんてさらさらない。 
おかしいのは亮だけど、こんな物要らない。 
僕が辛い思いをしたのも、怪我したのもペンダントの所為だもの。 
「いいよ…そんなに欲しいんだったら、そんな物くれてやるよ…」 
僕は釈然としない所はあったものの、潔くそう言った。 
「ほ、ホント?ホントにホント?」 
亮は少しビックリしてる様だった。 
失敗したかも知れないな。
亮が自分が悪いと思ってる今なら、何とか巧く僕の物に出来たかもしれなかった。 
「いいよっ!! 何回も言わせないでよ!!」 
「あ…ありがとう…」 
亮はばつの悪そうな顔で、僕の目を上目遣いで見ていた。 
「その代わり…。今度何か見つけたら僕にくれよ」 
「うんっ、うんっ、約束するよっ!!」 

亮がにっこりと笑った。 
こんな約束、コイツは明日になったら忘れるんだ。 
だけど僕は忘れない。そしたらその時言ってやるんだ。 
あの時、ペンダントを譲ったじゃないかって。 
僕に怪我させた事を、みんなにばらしてやるぞって。 

その後、また奥へと向かった。 
亮は上機嫌だった。
途中何度も振り返っては、僕に良い奴だの、今度おごってくれるだのと、機嫌を取っていた。
僕はそんな亮の態度を、まるで人ごとの様に流す。 
僕のそんな態度に気づかない亮が、鬱陶しく思えた。 
あんな事があった後だから、何もかも色あせて見えた。 
蜘蛛の巣が顔にかかってもなんて事はないし、 
壁に掛かった絵だって、別に動き出す訳でもない、ただの絵だ。 
何もかもつまらなくなって、今はただ帰りたかった。 
早く帰ってテレビが見たいなぁ。 
今日の夕ご飯はなんだろうなぁ。 
適当に亮の後をついて行くだけ。 

すると、前を行く亮が大声を上げた。 
「おぉいっ!!あった、あったぞ、お宝!!」 
飛び込んできた声に、急に現実に戻された。 
現金なもんだよね。でも、お宝って聞けば機嫌も治るよ。 
パッと駆け出し、亮に追いつく。 

「あ、駄目だよ!!気をつけて!!」 
ふと足下を見ると、そこにはぽっかりと大穴が開いていた。 
お宝は、その奥の壁に掛けてあった。 
鈍い光を放つ、赤銅色の蛙のペンダント。 
目の部分には、黒光りする石がはめ込まれていた。 
黒曜石とか言うやつだろうか。 
「…よかったじゃんか。ほら、お宝見つけたよ」 
どう考えても、鷲と蛙じゃ釣り合いがとれそうもない。 
亮もそれは判っている様だった。 
鷲はちゃっかり自分の物にして、僕には蛙でお茶を濁そうって事か。 
「うん…でも…」 
でも、あんな蛙なんか入らない。
全然ピカピカじゃないし、目だって赤い宝石じゃないし、それに蛙だ。 
僕は鷲が欲しいんだ。 


「そ、そっか、あれを取るのは骨が折れそうだもんね」 
亮はあからさまに話を逸らそうとしてる。 
蛙がかかっている壁には、下から梯子がかかっている。 
穴は大きくて、どう考えても、底に降りない限りは、梯子に手は掛からない様だ。 
しかしご丁寧に、穴の手前に太いロープが置いてあった。 
これで穴の底におりて、あちらの梯子を登れって事だろう。 
「これは…協力しないと取れないよね」 
亮が不安げに僕の顔を見る。 
「そうだね」 
その時の僕は、きっと無表情だったろうな。 
協力?さっき僕に斬りつけたばっかりなのに? 
「僕がロープをこっちで引っ張るから、たっくん取ってきなよ」 
絶対そう言うと思ったね。 
自分で降りるとは、絶対言わないと思っていた。 
何時も嫌な事は、僕にやらせようとするんだよな。 
「うん、わかったよ…。しっかり持っててよ、亮ちゃん」 
僕はそう言うと、亮の顔を正面から見据えた。 

「もちろんさ!!たっくんがお宝手にする番だもん」 
亮がにっこりと笑った。 
「ねぇ…お守りの代わりに、僕に鷲のペンダント貸してよ」 
「え…い、いいけど…蛙取ったらちゃんと返してね?」 
僕は鷲のペンダントを首にかけた。 
それだけで勇気がわいてきて、何でも出来るように思えた。 
簡単だと思った。亮の背中を押せばそれでお終いだ。 
「うわぁ、高ぇ…下が全然見えないよ。ホラ、たっくんも…」 
亮がこっちを振り返ろうとした時、足を滑らせた。 
そう、滑らせたんだ。僕は何もしていない。 
ちょっとぶつかったかもしれないけど、わざとじゃない。 
ちょっと脅かしてやろうと思っただけだ。 
亮がカッターナイフで僕を傷つけたように。 

鈍い音が穴のそこで響いた。 
亮の声は聞こえては来なかった。 
兎に角早くここは離れてしまいたい。 
ここを出て、早く何もかも忘れてしまいたい。 
でも、このペンダントを見て、思い出さないでいられるだろうか? 
暗い気持ちを見透かした様に、鷲の目が僕を見ていた。 
そんな訳ないのに、ペンダントが僕を見る訳なんてないのに。 

僕は恐ろしい想像が膨らまないようにと、息が切れる程思い切り走った。 
出口へ。早く出口へ行かなきゃ。 

出口だ!!
必死に走り、途中で何度も転んだけど、奥へと辿り着く時間の半分もかからずに、出口までやって来れた。 
やっと出られる。僕は手をかけ、力一杯そのドアを開こうとした。 
その時の僕の目は、血走っていたと思う。 
だけど、どんなに力を込めても、そのドアが開くことは無かった。 
どうやら閉じこめられてしまったらしい。 
「どうしよう、亮ちゃ…」 
言いかけた時、僕には頼れる相棒がいないのだと思いだした。 
一人で何とかしなくては。アイツの事は忘れて…。 

何度も蹴ったり、体当たりをしたり、叫んだりしてみた。 
だけど、結局ドアは開かなかった。 
何も考える事が出来ず、ただただ懺悔するより他なかった。 
ごめんなさい、ごめんなさい、亮ちゃん。 
やっぱり戻ってきてよ。こんなペンダントなんてあげるから。 
神様、どうかこの僕を許してください。 
そして、亮ちゃんを戻してください。 
良い子になります、ちゃんと勉強もします。 
ペンダントも亮ちゃんにあげます。 
僕はドアに手をかけたまま、泣きながら崩れ堕ちた。 

その時だった。ドアにかけた手が滑り落ちるうちに、妙な窪みにに触れたのだった。 
目を凝らしその窪みを眺めると、何処かで見た形にそっくりだった。 
そう。それは今僕が首にかけている、鷲のペンダントの形だった。 
そうかっ!!ここにペンダントをはめ込めば良いんだ!! 
神様が僕を許してくれたんだ。 
ペンダントをここに置いて行けば、許してくれるんだ。 
亮ちゃん…ペンダントはここに置いていくよ…。 
だから、亮ちゃんも許してね。 

僕はペンダントをその窪みに押し当てた。 
カチリと音がした。鍵が外れたんだ。 
今度こそ家に帰れるんだ。勢い良く僕はドアを開けた。 
そのドアの先、僕の目の前には…ドアがあった。 
愕然とした僕の目に飛び込んだのは、蛙の形をした窪みだった。 
鷲と蛙。二つが揃っていないと、外には出れないんだ。 
でも、蛙のペンダントはもう手に入らない。 
僕一人しかいないから。 
ペンダントは二つで一つ。友情の証だったんだ。 

あの、鷲のペンダントを首にかけた少年は僕だった。 
愚かにも、親友を裏切り、ここで息絶える事になった僕だったんだ。 

僕は次にくる誰かが、無事に出られます様にと祈り、 
ドアから鷲のペンダントを取ると、首にかけたんだ。

建築法だか何だかで、5階(6階かも)以上の建物にはエレベーターを設置しないといかんらしい。
だから、俺が前住んでいた高速沿いのマンションにも、当然ながらエレベーターが一つあった。 
六階に住んでいた俺が階段を使うことは全くといっていいほどなかった。まあ、多分誰もがそうだろう。 
来る日も来る日もエレベーターのお世話になった。
階段は下りるならともかく、昇るのはなかなかにツライ。 
だが、ツライのは分かっていても、今の俺は専ら階段しか使わない。 

大学の講義がない平日の昼頃、俺はコンビニでメシを買ってこようと部屋を出た。 
1階に下りるのには当然エレベーターを使う。
エレベーターは最上階の8階に止まっていて、今まさに誰かが乗るか降りるかしているところのようだった。 
俺は階下のボタンを押し、エレベーターが下りてくるのを待った。 
開いたエレベーターのドアの向こうには、中年のおばさんが一人いた。 
ちょくちょく見かける人だったから、多分8階の住人だったんだろう。 
軽く会釈してエレベーターに乗り込む。1階のボタンは既に押されている。 
4階で一度エレベーターが止まり、運送屋の兄ちゃんが乗ってきた。 
3人とも仲良く目的の階は1階だ。

だが。
エレベーターは唐突に、3階と2階の間で止まってしまう。 
一瞬軽いGが体を押さえつけてきた。俺を含めた室内の3人は、3人とも顔を見合わせた。 

何だ。故障だろうか。停電ではないようだ。エレベーター内の明かりには異常がない。 
「どう……したんすかね」
俺がぼそりと呟く。おばさんも運送屋も首を傾げる。 

暫く待っても動く気配がない。と、運送屋が真っ先に行動した。彼は内線ボタンを押した。 
応答がない。嘆息する運送屋。 
「一体どうなってんでしょう」 
運送屋の疑問は俺の疑問でもあった。 

多分数字にしてみれば、大した時間じゃなかった筈だ。沈黙は3分にも満たないくらいだったろう。 
それでも、漠然とした不安と焦りを掻き立てるには十分な時間だった。 
何となくみんなそわそわし始めた頃、エレベーターが急に稼動を再開した。 
おばさんが短く「わっ」と声を上げる。俺も突然なんでちょっと驚いた。 
しかし、だ。押しているのは1階のボタンだけだというのに、どういうわけか下には向かわない。 
エレベーターは上に進行していた。

すぅっと4階を抜け、5階、6階……7階で止まり、がらッとドアが開いた。 
俺は訝しげに開いたドアを見る。
全く、何なんだ。一体なんだっていうんだこれは。 


「なんか不安定みたいだから」 
おばさんがエレベーターを降りながら言った。 
「なんか不安定みたいだから、階段で降りる方がいいと思いますよ。また何が起こるか分からないし」 
「そりゃそうですね」と、運送屋もエレベーターを降りた。 
当然だ。全く持っておばさんの言うとおりだ。 
今は運良く外へ出られる状態だが、次は缶詰にされるかもしれない。 
下手をすれば、動作不良が原因で怪我をする可能性もある。そんなのはごめんだ。 
俺もこの信用できないエレベーターを使う気などはなく、二人と一緒に降りようと思っていた。 

いや、待て。 
何かがおかしい気がする。 
エレベーターの向こうに見える風景は、確かにマンションの七階のそれである。 
だが……やけに暗い。電気が一つも点いていない。明かりがないのだ。 
通路の奥が視認できるかできないか、というくらい暗い。 
やはり停電か?
そう思って振り返ってみると、エレベーターの中だけは場違いなように明かりが灯っている。 
そうだ。動作に異常があるとはいえ、エレベーターは一応は稼動している。停電なわけはない。 
どうも何か変だ。
違和感を抱きつつ、俺はふと七階から覗ける外の光景に目をやってみた。 

なんだこれは。 
空が赤い。 
朝焼けか、夕焼けか?だが今はそんな時刻ではない。 
太陽も雲も何もない空だった。なんだかぞくりとするくらい鮮烈な赤。 
今度は視線を地に下ろしてみる。
真っ暗、いや、真っ黒だった。 
高速やビルの輪郭を示すシルエット。 
それだけしか見えない。マンションと同じく一切明かりがない。 
しかも。普段は嫌というほど耳にする、高速を通る車の走行音が全くしない。 
無音だ。何も聞こえない。それに動くものが見当たらない。 
上手くいえないが、『生きている』匂いが、眼前の風景から全くしなかった。 
ただ空だけがやけに赤い。赤と黒の世界。

今一度振り返る。
そんな中、やはりエレベーターだけは相変わらず明るく灯っていた。 

わずかな時間考え込んでいたら、エレベーターのドアが閉まりそうになった。 
待て。どうする。
降りるべきか。
それとも留まるべきか。 

今度は特に不審な動作もなく、エレベーターは大人しく1階まで直行した。 
開いたドアの向こうはいつもの1階だった。 
人が歩き、車が走る。生活の音。外は昼間。見慣れた日常。 
安堵した。もう大丈夫だ。俺は直感的にそう思って、エレベーターを降りた。 

気持ちを落ち着けた後、あの二人のことが気になった。
俺は階段の前で二人が降りてくるのを待った。 

しかし、待てども待てども誰も降りてこない。 
15分ほど経っても誰も降りてこなかった。
階段を下りる程度で、ここまで時間が掛かるのはおかしい。 
俺はめちゃくちゃに怖くなった。 
外へ出た。 
何となくその場にいたくなかった。 

その日以来、俺はエレベーターに乗りたくても乗れない体質になった。 
今は別のマンションに引越し、昇降には何処に行っても階段を使っている。 
階段なら『地続き』だから、あっちの世界に行ってしまう心配はない。 
だが、エレベーターは違う。 
あれは異界への扉なんだ。少なくとも俺はそう思っている。 
もうエレベーターなんかには絶対に乗りたくない。

友人の話。
そいつはこの話を、「絶対に人に言うなよ」の前提で教えてくれたが、
俺に話すと言う事は、言っても良いって事なんだなと解釈したので、書き込みます。 

その友人をAとする。Aの友人にBという奴がいた。
と言っても、2人が会ったのはつい数年前で、俺も2、3回会った事があるだけで、直接喋った事は無かった。 
Bはなんつーか、陰気な雰囲気を持っていた。 
そもそもこの話を聞いたのも、『カイジ』という漫画に今出ている、カジノの社長?の顔がそいつにそっくりで、
その事を友人に電話したのがきっかけだった。 

ある時期Aは、Bと桃鉄が原因でちょっとした喧嘩をしてしまった。
それからしばらくはなんとなく気まずくて、会う事は無かったそうだ。
そんなある日、Bから電話がかかって来た。『今から家に来ないか?』と。
Aは胸のつかえが取れたと喜んで、そいつの家に行った。 

ドアをノックして中に入ると真っ暗。
「こっちだ、こっち」のBの声に誘われて部屋に入る。
その部屋も、何本かのローソクの明かりのみ。
Aは「どゆ事?」と聞くと、「今停電してるんだよ。まあそこに座りなって」。
「ああそうか」とAが座った瞬間、「ポンッ」と回りの何本かのロウソクが、音を立てて消えたそうだ。
「うわっ」と驚くAの目の前で、BがAめがけてロウソクを吹き消した。 
次の瞬間、見えない何かが背中にズンと乗っかって来た後、
グニュウといった感じで、自分の中に入り込んで来た感触があった。 
そんな感覚に驚きながらも、「危なねーな、テメーはよー」ムッとしてAが言うと、
Bは部屋の電気を付けて、ニヤニヤ笑いながら「馬鹿じゃねーの?お前」と態度が急変。
Aは「はぁ?」と聞くと、
Bは「今の儀式でお前に貧乏神がついたよ。
 いやあ、苦労したよ。こいつをこの部屋に連れて来てさあ、この部屋に閉じ込めるのは」 
Aは急激に腹が立ってBをぶん殴った。
そして「俺にいったい何をしたんだ!」と怒鳴ると、Bは鼻血をだしながら、
「言ったろうがよ!オメーに霊をとりつかせたんだよ!
 オメーが土下座したら許してやんよ!オラ、さっさとしろクズが!」
と狂ったように叫ぶ。
「っの野郎・・!」と、またAはBを殴った。何度も、何度も。 

しかし、Bの態度は変わらない。
Aは最後に、近くにあったPS2を思いきりBに投げ付けて、家に帰った。 


その日から夜中の3時近くになると、頭痛と耳鳴り、そして気持ちが悪くなり何度も吐く、
といった日々が続いた。
医者に行っても原因不明。薬を飲んでもまったく効かないそうだ。 
Bの家に行っても誰もいない。
毎晩の吐き気で眠れないAは、軽いノイローゼーになったらしい。 

「その時書いた日記もさ、訳わかんねえんだよ」と俺に言ったので、是非にとAの家で見せてもらった。
2ちゃんに書き込むネタ発見!と、「この日記帳少し貸してくれ」とお願いしたのだが、
「お前に貸したら何されるかわからん」と固く断られた。
ならばと、Aが買い物に行っている隙に、何ページかをスキャンして自分宛にメールで送信してやった。

日記帳には、次のような事が書かれていた。
『○月○日 あたり(←天気を記載する場所に書かれていた)
 今日からめんそ、げら、眠ることはやしけどそんあの ばかり だな。
 恒久の平和崇高ゆうこさんからせんべいさんえび。。。。
 *****(読めない)あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああがあああがっがああがああ?あ?
 むいりむりやっぱり「なあそうだったか」だらーうぜーくう*****』
『あかい月あかい日 やり
 ないふそらからびばああばば、痛いいたいい、やりたいちんこむくむくぴんぽ、
 天井からひこうきりちゃくりく、いたい頭痛い、しにてえ恐いけどしにてえ、
 はらがあついまなみふぃなまふしとととととととと』
『きつ月山日 板色
 たすけてみてるみてるみてるみてるみえい、あっ8たこそおかしくりはらえんが骨が出現みてない、
 むけてもむけてもだらだら流れりしてらんあい』

本当に訳わからん。


そして「このままじゃマズイ」と思ったAは、友人Cに相談した。
Cは結構有名な神社の息子で霊感がある。
因にその神社には、名のあるミュージシャンなどが祈願にやって来るそうだ。
『電話じゃ何だから』と、Cは直接Aに会った。

Aを見るなり、「ああ・・、嫌な感じがするな、お前」とCは言った。
「どうすればいいのかな?」とAが聞くと、
Cは「取りあえず、そのBの家に案内してくれ」。
そして2人はBの家に。

相変わらず人の気配は無い。郵便受けには、広告や手紙がつまっている。
「んー・・」とCは唸った後に、「今から行くか」と、CはAを自分の車に乗せた。 
「どこに行くの」聞くAに、Cはタオルを渡して、「それで目隠ししてくれ」と言う。
「え?何で?」
「いいから俺を信じろって。助けてやるからさ。着いたら起こしてやるし、しばらく寝てろ」
とCが言ったので、「じゃあ、そうするか」と、Aはタオルで目隠しをして、後ろの座席で横になった。
横になり目を閉じて車に乗っていると、なぜか子供の頃を思い出して、懐かしい気分になった。

車は左右に曲ったり砂利の上を走ったり・・・
しばらくすると、Cは携帯で何所かに電話をしている。
「今から行くから、ああ・・」
その内Aは、妙な安心感からか眠ってしまった。 

「おーい、着いたぞー」
その声でAは目覚めた。
反射的に目隠しを取ろうとするAを、Cは「まだ取るなって!」と止めた。
そのまま出たAは、何人かの人に腕を取られながら、何所かへと連れて行かれた。
砂利の上を歩いているのが、足の感触でわかった。
途中から靴を脱がされて、建物の中に入って行く。
「久しぶり」と言うCの声と、「ああ、この子か」と低い誰かの声。

しばらく行くと、「着いたから座って」とCに言われ、その場に座った。床が冷たかった。
何かお香のような匂いがする。が、妙に落ち着き、そしてなぜか、泣きそうになる匂いだった。 


「目隠し取るぞ」とCが言って、タオルが外された。
暗い、何本かのロウソク。まるであの時の、Bの部屋のようだった。
上を見ると、かなり高い天井から、何本かのロープがぶら下がっている。
部屋の四隅にもロープやお札。

目が馴れず上手く見えないので、目を細めてジッと見つめようとすると、「こんばんは」と低い声。
見ると、誰かが自分の前方に座っている。
見た目はヤクザ。
その人は立ち上がりAに近付いて、「そのまま」と、
Aの目を親指でアカンベーするように、目の下の皮を引っ張った。
そしてAの目をジッと見た後、「可哀想になぁ、今迄つらかったろ、よく頑張ったな」と優しく言った。
心身とも疲れていたAは、その言葉を聞いてボロボロと泣いてしまった。
「うん、それでいい。
 とりあえず、無理に泣き止もうとせんで、力を抜いて感情に身をまかせりゃええでな」
と、Aが泣き止む迄ジッと待っていた。

Aが泣き止むと、
「息子から大体の事は聞いたが、君の言葉でもう一度、その時の状況を事細かに教えてくれんかね?」
というので、Aはそれに答えた。
するとその人は、
「やはりな。お前さんに憑いとる霊は、ここにいてはいけない霊だでな、
 それはなあ、いわゆる自縛霊というもので、本来は人で無く場所に憑く霊なんだよ。
 だが君の友人があるやり方したもんで、
 自縛霊を憑いていた場所から引き剥がして、君の体を霊の憑く場所にしてしまったんだ。
 今から引き剥がすで、力抜いてそのままでな」
と、Aの後ろに回って、砂のようなものを首に擦り付けた。
その後、お経のようなものを唱えながら、シャンシャンと鈴の様なものを鳴らしはじめた。
Aの体は一定の間隔で、ブルルッ、ブルルッ、と震えたそうだ。
その内頭がクラクラし、意識がもうろうとする。
最後に体が立ち上がる程ブルルルッと震え、何かが自分の体から抜けて行った。 

その後、そのまま車に乗せられて帰る事に。
頭はボーッとしたままだ。だが今度は目隠しは無し。
「悪かったな、目隠ししちまって。
 あーゆーのはさ、場所とかの先入観無い方が成功しやすいからさ」
と、遠くで聞こえるCの声を聞きながら、Aは眠ってしまった。 

気が付くと家の前。Cに起こされ目が覚めた。外はすっかり夜になっている。
Cは「今日は俺が一緒に泊まるよ」と、デカイ荷物と共にAの家に上がり込んだ。 
そして家の中をウロウロした後、Aの家の見取り図を紙に書いて、
「FAXある?」と聞いたので「無い」と答えると、「それじゃあ」とCはコンビニへ行き、FAXをした。

AはCに、「何が始るの?俺はもう大丈夫なんだよね?」と聞くとCは、
「まだ終わって無いよ。きっとその内引き剥がされた霊が、お前の所に戻って来る可能性がある。
 これからその対策をするのだ」と答える。
するとCの携帯に電話が。どうやらCの父かららしい。
CはAの家の見取り図を見ながら、
「うん・・・そう、そっちが北ね。ああ、やっぱりこのルートね」と、ひとしきり喋った後電話を切り、
「今から、帰って来る霊を追い返す処置をするから手伝ってくれ。 
 あ・・・鏡が無いや。Aの家って、全身が映る鏡ある?」
「いや、無いよ」
「じゃ、買いに行くぞ」

そして、近くのロヂャースで全身が映る姿見を買い、家に帰る。
Aの家の見取り図を見せて、
「お前の家のここ。ここが霊道になってるのよ。
 霊道ってのはさ、もしお前の家に霊がやって来るとすんだろ?
 その場合、霊が通る場所ってのがあるんだよ。それが霊道ね。
 いまからその道に障害物とかを置いて、通行止めにするんだよ」
どうやらA宅の霊道は、玄関から入り真直ぐ廊下を突き抜けて、外に出るルートらしい。
「最良のルートだ」とCは言った。

そして、持って来た荷物の中から色々取り出した。
廊下の端に、祭壇の様なものと日本酒の入ったコップ。廊下を塞ぐような形で姿見を置いた。 
何でもこうする事により、玄関から入って来た霊に、鏡に映った自分を見て死んでいる事を気付かせる。
また、鏡には色んなものを反射する力があるので、
鏡にぶつかった霊は、鏡に跳ね返されて戻って行ってしまうらしい。
「これを何日か続ければ、霊は消えるか他の場所に行ってしまう」とCは言う。 


その夜、Cは色んな事を教えてくれた。
Aを連れて行った場所がCの実家で、Aの除霊をしてくれたのがCの父であった事。
Bの家は安易な行動の為に、関係ない霊までが集まってしまっているのだが、
恐らく間違った結界を貼ってしまった為に、霊達があの場所から出るに出れない状況。
それに耐えられず、Bはあの家にいられなくなった。または、死んでいるだろうと。

結局、その夜は何も起らなかった。Aは久しぶりにまともに眠れた。 

次に日、Aにお礼を言われたCはそのまま仕事に行き、Aはバイトに行った。 
その際Cは、いくつかAに注意をしていった。
「日本酒は毎日取り替える事」
「鏡は出来れば動かさない事。特に夜は、絶対にあの場所に置いておく事」
「出来れば塩も盛っておく事」等。 

その事をAはキチンと守った。

そして何日後の夜、Aはある物音で目が覚めた。
耳をすまして聞くと、ミシッ、ミシッ、と何者かが廊下を歩いている。
帰って来やがった!
そう思いジッとしていると、「ガン、ガシャーン!」と、何かが落ちる音が。
「うわー」と震えていると、何時の間にか物音は消えてしまった。
朝廊下に出てみると、廊下の脇に置いてある洗濯機の上の物が、廊下に散らばっていた。 

その日、AとCはファミレスで会う。
Aが昨晩の事を話すと、「ああ、そりゃあ、霊の奴がムシャクシャしてやったんだよ」
Cは笑いながら言った。
「やな霊だな、オイ」
「ま、そんだけ効果があるって事だからね。出来るだけ廊下付近には、余計な物置かないこった」 
とCは言って帰っていった。
さっそく廊下付近の物を無くした。


やがて廊下を歩く音にも馴れ、朝起きて夜ぐっすり眠るという普通の生活を取り戻し、
ついに霊は現れなくなった。 
CもAの家に来て、「これならもう大丈夫。御苦労様でした」と、事件の終わりを告げた。 

しかし、こうなると気掛かりなのはBの行方。
Cに聞いても、「別に知ったこっちゃ無ぇんじゃね?まあ、死んだ所で自業自得だしな」
と、全然気にしていない。
まあ、CとBは直接会った事も無いので、そんなもんなんだろう。 

数日後、AとBの共通の友人Dから、Bの事を聞いた。 
Cの言う通り、Bはあの後すぐ実家に帰って、そこで暮らしていたそうだ。
その数日後の夜、2階の部屋で寝ていたBを、Bの父が包丁でメッタ突きにして殺してしまったそうだ。
その後、父は2階から飛び下りて骨を骨折。しかも、その時の事は覚えて無いらしい。

ただ、奥さんの話だと、その夜は何か父の様子がおかしかったそうだ。
「この世ではない物に腕を舐められた」と、訳のわからん事を言っていたそうだ。

映像製作の専門学校がありまして、私はそこで講師の助手のような仕事をしています。 
1年生の授業で、
『カメラを渡され、講師が決めたテーマに沿った映像を、次の授業の日までに撮ってくる』
というものがあるんです。
で、その先生が第一回の授業で課題に出すテーマは、いつも同じだったんですよ。 
『死んだ街』というテーマなんです。 
で、この授業の狙いは、
『顧客の漠然とした要求に、いかに具体的な映像で答え納得させるか』みたいな事を勉強する授業で、
今回の死んだ街の場合なら、一番ベタなのは、寂れて見えるような映像を撮ってくれば良いわけです。 
でも生徒は皆、まだ学校に入ってから半年程度しかたってない、素人同然の人間ですから、 
そんな意図はなかなか汲み取れないわけです。 
だから、結構変なものをみんな撮ってくるんですね。
死んだ虫撮って来たり、自殺する人の短編ドラマ作ってみたり。 

その生徒が撮って来た映像の中に、一つ妙なものが混じってた、という話なんです。 
その映像には『別館』と呼ばれている、うちの学校の敷地内のビルが映っておりまして、 
夕暮れ時に生徒がカメラを持って、そのビルの中を歩きながら、
ここで女が自殺して幽霊が云々、という話を延々とするというもの。
まあなんとなく、実話怪談モノのような、趣のある変な物だったんです。 
オチが結構よく出来てまして、
最上階の教室で怪談話を語り終わった後で、
カメラが突然アングルを変えて固定されて、画面の上の方に窓が映るんですが、
その窓の外に女が張り付いてるんですよ。
窓に手を押し付けるようにして。 
要するに、『幽霊話してたら幽霊が出ちゃった』というオチをつけたんだと思って、感心したんです。 
外も暗くなってきたし、カメラのピントがその女に合ってないから、
表情なんかもちょっとぼけててわからなくて、
それがまた幽霊っぽくて、なんとも怖いんですね。 

それで次の授業の後に、
「この前のアレ、テーマからは外れてたけど面白かったじゃないか」
なんて言って、それを撮った生徒と話したんですよ。 

そうして話しているうちに、妙な事に気付いたんです。
彼、「窓の外の女のことは知らない」って言うんですよ。 
「確かに、そのビルで怪談話をしながら撮ったんだけど、
 オチの後のその窓が映るカットは、
 単に撮影を終えてカメラを地面に置いた時に、録画スイッチを切り忘れただけで、 
 荷物を片付け終わった時に、カメラが回っていることに気付いてカメラを止めたんだけど、 
 まだ自分は編集機材は使えないし、上から他の映像かぶせるのも変だし、
 そのままにして課題提出しちゃっただけだ」って言うんですね。 

私はてっきり、その生徒が僕を怖がらせようとして、オチの事をはぐらかしてるんだと思って、
「あの女の子彼女?」とか、
「あんな高い所の窓の外に立たせたりして、よく怒られなかったなー」とか、からかってたんです。
そうしたら、彼が「何言ってるんだ!」とか怒り出しまして、 
一緒にその彼が撮ってきた作品を、編集室で見ることにしたんです。 

で、女が映ってる所見て、私がホラホラって窓の所示したら、彼真っ青な顔になって、
「こんな物撮ってない」「俺は知らない」って言って、
そのまま帰っちゃったんですよ。 

で、私は一人編集室に取り残されまして、
「最後まで芸達者な奴だなあ」とかニヤニヤしながら、彼の撮った窓の外の女の映像を見ていたんですが、
そこで気付いたんです。 
映ってる教室の窓の大きさから逆算すると、その女、顔の大きさが70cmぐらいある計算になるんです。

幽霊が近づいてきたら、どうすればいいのか 


よくTV番組で、霊とコンタクトをとっている霊能者がいるけど、 
オイラはあれを観て、すごく不思議に思っていたんだ。 
だってオイラが出会うシュチエ-ションでは、オイラはいつもただの傍観者でさ、
話しかけられたりとか、追いかけられたりなんて事も、一度もなかったし。 
まるで流れる雲を見たり、突然現れる虹を見るように、それはただの『現象』でしかなくて、
何かをアプロ-チされたり、コンタクトがとれる、なんて事はなかったんだよね。

でも、その晩は違っていたんだ。 
竿を持って座っていたら、いきなりステ-ジが変わった。
それもまるで、周囲からの刺激に身体が反応するなんてレベルじゃあなくて、 
オイラの身体そのものが一本の神経になったように、全身の毛の一本一本が立つのが解った。 

「ウッワァ~、やっべ-!!」と思いながら、
直ぐに竿をたたんでしまおうと思って、視線を動かしたその瞬間、
オイラから10m程離れた湖面に、スッと動く姿が眼に入ったんだ。 
日本髪ではなかったけど、時代を感じさせるような着物姿の女性。
オイラに見えるのは横からの姿で、女性は真っ直ぐ前を向いて、水の上を滑るように進んでいた。 
その姿のあまりにも生々しい存在感に、オイラの思考回路がパニクッた。
「ん、ん~!」っと、ついあげそうになった悲鳴を押し殺したつもりが、
それは唸るような声になって出てしまった。 
その時、ありえない事がおこったんだ。オイラのその声が聞かれてしまった。 
一度オイラの前を通り過ぎたソイツが、立ち止まってクルッと振り返ったんだ。 

「ア~!!!!!!」
今度は本格的な悲鳴になった。
全身の筋肉が、いや全身が固まって、一つの個体になってしまう程身体が固まった。 
オイラがあげた悲鳴と同時に、その着物姿のヤツが、
10数m離れた湖面から、一瞬にしてオイラの目の前に移動して来たんだ。
鼻の頭同士がぶつかるような距離までせまって、宙に浮かぶような状態で、
オイラをジ~ッと見下ろされる。 
「アワワワ・・・ワワ・・・」
オイラは顎がガクガク鳴って腰が抜けて、その場にヘタリこんじまった。 
そうしたら、今度はその「アワワワ・・・」という、オイラの出した声に合わせたように、 
ソイツはスウ-ッと、オイラから離れて行ったんだ。 
と同時に、場のステ-ジも、スウ-ッ・・と軽くなった。 

この時の経験で得た事なんっすが、霊気を感じた瞬間はとにかく、息を止める事っすね。 
ほんで、そこからゆっくり少しずつ息を吐いていくと、その場の空気が軽くなって行きますよ。 
実際に見えているものがあれば、ソヤツもス-ッと消えていく時もありやす。 
逆に「ヒエッ!」なんて悲鳴をあげながら息を吸い込んじゃうと、お持ち帰りになっちゃったりします。 
どうも人によって、その瞬間に息を吸い込む人と、吐き出す人がいるようですが、
その違いは大きいでっせぇ。

学生時代に、仙石線沿いのアパ-トを借りた事があります。 
同期の奴と二人で同居をしていた僕は、ここで一生忘れられない経験をしました・・・。

校内の規則に依る一年の学生寮住まいを終えて、晴れてアパ-トに移ったばかりの、
忘れる筈もない、四月十日の晩の出来事です。 

夜中に、妙な夢を見て目が覚めました。 
夢の中で眠る我々二人を、ベランダのカ-テンの陰からジッと見ている者がいるのです。 
薄暗くて顔は見えませんが、その姿はハッキリとわかり、僕は布団の中で呼吸を整えました。 
「こんの野郎・・・とっ捕まえてやる・・・」 
不思議と恐怖感はなく、(夢の中だからか)
機を狙ってとび起き、「誰だ!」と叫ぶと、カ-テンを払いのけるように開けました。 


勢いよくカ-テンを開けようとした僕は、
ベランダに無造作に並べておいたペットボトルを蹴ってしまった。
「カラカラ-ン!!」 
二階にある我々の部屋のベランダから落ちたボトルが、アスファルトの上で跳ねた。 
思わずその音の方向を見ると、黒い人影が走りゆく姿が見えた。 
「逃げられたか・・・」 

そう思ったところで目が覚めた。
隣の布団を見ると、同居人が間抜けな顔で眠り呆けていた。 
変な夢を見たものだな、と思いながら時計を見ると、寝付いてまだ一時間半。
まだまだ充分、寝直す時間はあった。
さあ、またグッスリ寝よう、と思ったその時、
恐怖との対面の瞬間は、突然やってきたんです。 


明らかに誰かから見られている。それがハッキリとわかるんです。 
それは視線を感じるとかいうレベルではなく、例えて言えば、
生命を維持しようとする僕の本能に、直接触れられたような恐怖。
視覚でも聴覚でも感じ取れないものを、感じてしまった瞬間でした。 
二十歳の誕生日を向かえたばかりの僕でしたが、それまで霊感など感じた事もなく過ごして来た。
それがこの日この瞬間に、いっきに開花したんです。(事実、この晩以来、僕は様々な霊体験をする様に) 
搾りあげられるような恐怖に、鼻の奥から目頭にかけて突き抜けるような感覚が走り、
顎は僕の意志ではない力で、グラグラガクガク揺れました。 
「うぉあぁあああ-」
その瞬間は理性などなかったのでしょうが、無意識に隣で寝ている同居人を揺り起こしていました。 


「おい、起きろ、おい!」 
何も知らずに寝入っていた同期はキョトンとして、 
「ん?どした・・・」
この時程、誰かと言葉を交わす事に安らぎを感じた事は、今まで無かった事だと思います。 

ひと言同期の声を聞いただけで僕の恐怖は半減し、
ゆっくり、今夢を見て目覚めたところから、得体の知れない恐怖感を感じた事まで言い終えると、
すっかり気持ちが落ち着いていました。 
「まあ、また何かあったら起こせよ。俺は寝るぜ・・・」 
「ああそうだな。悪かったな、起こして」 
そんな会話を最後に、同期は直ぐにまた眠りに入ってしまいました。 

「気のせいにしてはスゴかったな・・・」 
そう思い返すとなんだか、あれ程怖がってしまった自分に照れさえ感じながら、
自分も布団に入り、視線を上に向けたその時、ソイツと眼が合ったんです。 

この話には随分ちゃちな脚色がされて、しばらくの間、我が校の後輩に伝わったみたいで、
自分自身、直接後輩から聞いた事があります。 
最初は、まさか僕がその当事者であるとは思わずに話してたみたいですが、
そんなふうに後輩の間には伝わっているんだな、と思いました。 
でもこの話しは、下手な尾ひれなど付けなくても充分というか、
むしろ脚色してしまう事でリアリテイがなくなっているなと。
本人である自分としては、どうしてもそう思ってしまいます。 


僕と同居人が寝ていた部屋には押入があり、
その押入の上方に縦が40cmくらい、横幅が襖幅の収納スペ-スがありました。 
押入に足を向ける形で寝ていた僕達は、仰向けになって眼を開くと、
自然に押入の上の収納スペ-スに視線が向くんです。 

そして、その中にソイツはいたんです・・・ 
たった40cm程しかない高さに平べったくなって、胡座をかいて腕組をして、ジッとこちらを見ている。 
痩せスギの身体にはアバラがうきでて、やたら手足だけが長かった。 
不思議なのは、(ここまででも不思議ですが)
そこの収納スペ-スの小さな襖は閉まっているのに、その姿がハッキリ見えるんです。 
サ-ッと血がひくという表現をよく聞ますが、
この時は、自分の体温が急激に冷えていくような感じがしました。
大声で叫ぶような種類の恐怖ではなく、妙に冷静に頭の中で、
「そんな筈はない、そんな理由はない」と、目の前の現実を懸命に否定しました。
そしてガバッと布団をかぶって、ギュッっと眼をつぶったんです。 


でもそれでも尚、ハッキリとソイツの姿は見えるです。 
まるで襖も布団も僕の瞼もなくなってしまい、
いや、部屋そのものも消えてしまったかのように、僕とそいつだけが空間に存在しているかのように・・・ 

覚えているのはここまです。後から思えば僕は気を失ったのだと思います。 

次の日の朝は素晴らしい快晴で、何度も声をかけたという同居人に起こされて僕は眼を覚ましました。 
僕を形勢する細胞の一個々々までも眠っていたかのような、深い眠りでした。 
実際この朝以来、現在に至るまで、僕の人生の周囲には様々な不思議な出来事がありますから、
そういう意味では生まれ変わったのかも知れません。 


あまりに深い眠りだった為か、現実として受け止めたくないという気持ちがそうさせるのか、
僕は起こされた時点では、昨夜の出来事などまるで覚えてはいませんでした。 
「おい、お前、あれからは何ともなかったか?」 
「・・・何が?」 
「何がってお前・・・夕べお前、俺を夜中に起こしただろ。
 ほら、何だかおっかねぇ夢を見たとか何とかよぉ」 
同期の奴の言葉を最後まで聞かないうちに、一気に記憶がよみがえった時のあの恐怖は、
今も忘れられないんです。 

高砂の駅を降りて、少し歩いてから踏み切りを渡ると、やがて道に突き当たり、 
そこを曲がったところに、ヒドク無愛想な店主のいる雑貨屋がある。 
そこの斜め向に、僕らのアパ-トはありました。 
あのアパ-トでの出来事は、あれから何度も繰り返し誰かに話をしたり、時間が経過していく過程で、
自分の中でどんどんリアリティが薄れました。
自分自身も今では、あれが事実であったのかどうかも確信が持てない程、記憶は曖昧になってしまいました。 
でも、間違いなく現実に体験した事なのです。 


同期と一緒に朝トレに向いながら、ふと気がついた事がありました。 
「そういえば押入の上の収納スペ-スって、覗いた事があったかなあ」 
少し気にはなったが、何かを考えながら出来るほど我が部の朝トレは軽くなく、
しばしの間は、そのことから頭が離れました。 

朝トレからの帰り道、気になっていた事を同期に聞いてみた。 
「おい押入の上って、何が入ってるんだ?」 
「そんなの知らんよ。アパ-ト入る時に片づけたのはお前だろ」 
「そうだよな。じゃあもしかしたら、まだ一回も開けた事ないかもなあ」 
昨晩自分をジッと見つめていたアイツは、なぜあそこから見ていたんだろう。 
それまで気にも懸けた事のないあの収納スペ-スが、入居以来未確認だった事もあり、
当然ですが、確かめられずにはいられなくなりました。

アパ-トに戻ると、先ずは朝食の用意なのですが、
その間に同居人である同期が、例のスペ-スを確認しました。 
「なんだこりゃあ」という同期のヤツの声が、台所まで聞こえてきたので、 
「どうしたぁ・・」と、自分も押入のある奥の部屋に入ってみました。 
「ちょっと見てみろよ」
「何だよ、何があったんだよ」 
同期が丸イスから降りたので、次は自分がイスにあがり中を覗くと、
眼に入ったのは、黄色に変色した新聞に包まれた、大きな箱でした。 


スペ-ス一杯にギリギリおさまっている箱を見ながら、
「何なんだろうな」「何が入ってるんだ」 
と、同期と二人で顔を見合わせましたが、意見は直ぐに一致しました。 
「とりあえずは開けてみようか」
普段、紙に包まれた箱を開ける時などは、包装紙をビリビリに破ってしか開ける事のない自分が、
この時は妙に慎重に、ゆっくりと包みを開きました。 
押入の上から下におろす時の手応えで、箱は随分しっかりしたつくりのように感じましたが、
古新聞の中から出て来たものを見て、我々二人は一瞬息を呑みました。 
「仏壇だ・・・」

一般家庭の仏間に置いてある仏壇に比べれば、ひとまわりもふたまわりも小さくはありましたが、
その外観はどう見ても仏壇でした。 
「中を開けてみろよ・・・」 
「う、うん・・・」 

この時、この仏壇を開けるのが、自分ではなくて同期の方だったら、
その後の展開は違ったのかもしれません。 
この日以来、身の回りでそれまではあり得なかった出来事が、次々と起こるようになったのは、
どうしてもこの事がキッカケであるとしか思えないのです。 
しかし、自分が古新聞の包みを開けた流れもあり、
仏壇らしき扉に手をかけたのも、やはり自分だったんです・・・
この時、迂闊にも立てる事をせずに、仏壇を寝かしたままで扉を左右に開いてしまいました。 
勿論この時はまだ、それが後々自分の胸の中につきささって来る事になろうとは、
思いもしなかったのですが・・・ 


カチャッ・・っと観音開きの扉を開けると、中央に寝かすように置かれている仏像と眼が合いました。 
その瞬間、一瞬その眼がカッと開いて、私をニラみつけたような気がして、身体がブルッとふるえました。 
「おぅわあぁああ!!」と大袈裟にふるえたので、同居人も驚いて「おぉ!」と声を出し、
「おどかすなよ、どうしたんだよ」 
「ああ、悪い悪い・・・」 
そう言いながらゆっくりと、その仏壇ごと縦に立てて、仏像も中央に置いてみました。 
立てて見ると、その仏像は随分下眼使いで、正面からみても、先ほどのように視線が合う事はありませんでした。
「それにしても、さっきはビビッたなあ・・・」 

何となくその場に居て空気が重くなり、台所に戻ろうと思い立ち上がりました。
すると同期のヤツが仏壇の中をのぞき込んで、「ん、何か書いてあるなあ・・」と言うのでその場にとどまり、 
書いてある内容を同期が読むのを待ちました。 
「ええっとぉ・・・
 『決シテ意ヲ合ワセヅ合ワサセヅ 決シテソノ眼ヲ合ワセヅ合ワサセヅ』」 

背筋が冷たくなったなんてものではありませんでした。 
自分はもう既に眼を合わせるどころか、あの眼で睨まれてしまった後なんですから。

普通に設置し、仏壇が立っている中央に置くぶんには、
余程下からのぞき込まない限りは、眼が合う筈のない仏像でありましたが、 
横置きにして開いてしまったが為に、しっかりその眼で私を確認されてしまいました。 

しかし、だからといって、それがどうだというのか、何があるというのか、解りませんでした。 
その時はまだ、切り開かれた新しい感覚が、ほんのちょっと働き始めたばかりでしたから・・・ 
それでも、そのほんのちょっと働き始めたばかりの感覚なりに、
これから自分の身の回りに、何かしら異変が起こるような予感はハッキリとしました。

友人のもり君には彼女がいない。もてそうな奴なのに、と不思議に思っていた。

ある日、二人で飲みに行く機会があった。
気になってそのことを訪ねてみると、彼は黙り込んでしまった。
聞いちゃいけなかったかなあ、と思っていたら、「家に遊びに来ないか」と誘われた。
気を悪くしてないことにホッっとして、僕は素直に申し出を受けた。 

酔っていたから定かではないけれど、アパートに着いたのは夜の1時前くらいだったと思う。 
もり君は鍵を開けると、不思議なことを言った。 
「中に入ったら内側から鍵を閉めるから、この鍵で外から開けて入ってきて」 
怪訝そうな顔をすると、「内側からかける鍵が壊れていないか調べたい」と言った。 
僕はお安い御用と、彼が中からドアを閉めた後から、鍵を回して部屋に入った。 

本当はここで、彼がしようとしていることに気づくべきだった。 

僕は部屋に入ると、彼と再び酒を飲みながら話すつもりだった。 
しかし、酒が水みたいに感じる。
僕はなんだか、その部屋にいるのが嫌だった。
胸騒ぎがする。胃が浮き上がっているような感覚が止まらない。 
こちらの気分が伝わったのか、彼の口調も重い。 
僕は部屋に入ってからずっと気になっていることを、彼に軽い調子で訪ねたかった。 


299 :本当にあった怖い名無し:04/10/14 21:28:32 ID:BOyHxCgw
だんだん家に帰りたくなってきた。彼の家に来てから30分もしない。 
もう真夜中だから電車なんかない。それでも僕は、家に帰りたくてたまらなかった。 
それくらい、その家にいるのが嫌だった。 

その時、どんな言い訳をしたのかは覚えていない。動揺していたんだと思う。 
だから、彼が僕を引き留めないことにも、疑問を覚えなかった。 
僕は逃げるように、タクシーで家に帰った。 

今思い起こせば、最初の鍵が問題だった。
あれの意味は、僕にドアを鍵で開けさせることにあったのだ。
鍵でドアから入り、最初に出て行くこと。 

ついこの前、彼女が僕のアパートに遊びに来た。
そして僕があの晩、頭の中で彼に訴え続けた疑問を口にした。 
「玄関のハイヒール、誰よ」 

僕は今夜にでも、家に友人を呼ばなければならない。

あのさー昔(小学生の頃)、家の横の家の熟年夫婦がさあ、よく喧嘩してたんだよ。 
夜中に「殺すぞ!」とか怒鳴り声が聞こえてきてさ、食器が割れる音やらね。
とにかく凄く激しい夫婦喧嘩だった。 
近所迷惑だったしさ、でも野次馬な自分は、部屋の電気を暗くして、横の家の覗きが趣味になっていた。 

その日も、夜中激しい喧嘩がはじまったから、電気を消してそ~っと覗いてたんだよ。 
横の家さあ、カーテンをいつも開けてるから、俺の部屋からはおもしろいぐらい丸見えなんだよね。 
オバサンがフライパンでオヤジを殴ったり、ヒステリーに食器を投げ付けたり、
オヤジが椅子を投げたりしてさwなかなか見応えのある喧嘩だった。 
その時にさ、オヤジが窓から覗いていた俺に気付いたんだよ。 
オヤジは窓を勢いよく開けると、
俺の方に向かって「ぶっころされてぇのか!この糞ガキが!」と怒鳴り威嚇してきた。 
消防だった俺は怖くなり、親の部屋に行き布団に潜りこんで、その日は寝た。 

それからしばらくたっても、オヤジは何も言いに来なかった。俺は覗きをやめた。 

俺の家は柴犬を飼ってたんだよ。近所の商店街の店で貰った犬だ。
とってもかわいくて頭も良いし、なにより優しくて良い犬だった。 
隣のオヤジが犬嫌いなのは知ってたが、庭で飼ってたし何も迷惑はかけていなかったはずだ。

だがある日、隣のオヤジが俺の家に怒鳴り込みに来た。 
犬が臭いだの、俺(オヤジ)を見て吠えるだの、保健所に今すぐ連れていかないと犬を殺す!と言われた。 
俺は「絶対、犬を保健所にやらないでくれ!」と泣きながら親に頼んだが、
ある日、学校から帰ってきたら犬は居なかった・・・ 
俺の親は、犬を余所にやらないと、隣のオヤジが俺や兄弟に危害を加えるんじゃないか、と考えた末に、
仕方がなく犬を手放したそうだ・・・
だが、俺は悲しくて悲しくて、隣のオヤジが憎くて仕方がなかった。 

親が言うには、犬がかわいそうだったので保健所にはもっていかず、車で隣の県の山に連れていったそうだ。 
犬は山につくなり、嬉しそうに走り回っていたらしい。
その間に親は犬を置き去りにし、車で帰ってきたそうだ・・・ 
犬の気持ちを考えると涙が出る。遊びに連れてきてもらったと思ったんだろうな。 
しかし、遊び終えて飼い主の元に行っても誰も居ない。知らない土地に一人ぼっちにされて・・・ 
不憫で仕方がない・・・
俺は隣のオヤジを憎んだ。呪い殺してやろうとさえ思った。 

そして、なぜか隣のオヤジは、いきなりポックリ死んだのだ。
俺は嬉しくて嬉しくて!踊り狂いたいぐらいの喜びだった! 

オヤジの死因はわからない。オバサンに殺されたのかもしれないし、よく分からなかったが、どーでもいい。 
今まで生きてきて、人の死がこれ程までに喜ばしかった事なんてないだろうな。 

オヤジが死んで一週間たつか、たたない日に、庭から「ワン!ワン!」と懐かしい声がした。 
俺は部屋から飛び出した。なんと犬が帰ってきたんだよ!泥だらけで真っ黒になって! 
こんな幸せな事はなかった。
この時ばかりは、神を信じざるを得なかったよ。 

2年前に犬は老衰で死んでしまったけど、俺は精一杯かわいがったし、犬から沢山の幸せをもらった。
ありがとうと言いたい。 
犬はいいよ。 

怖い話じゃなくて、すいませんでした。急に思い出してしまったので・・・ 

犬が天国で幸せに暮らしてくれる事を、俺は願ってる。
もし生まれ変わりってのが存在するなら、また俺と何かしら深く関われる存在に生まれ変わって欲しい。
ありがとう。

関西限定芸人、メッセンジャー黒田が体験したという話。 

昔、心霊スポットに霊能者と共に行き、心霊写真を撮るという仕事が入って来た。
黒田は霊的な物は一切信じておらず、ためらい無く引き受けた。 

いざ現場に行くと霊能者が反応し、「霊がいる」「撮れる」という場所を指さした。 
言われた場所には木が立っており、黒田は普通に写真を撮った。 
撮れた写真を見た所、木に横半分顔が隠れたざんばら髪の男が、カメラ目線に映っている写真が撮れた。 
明るい場所で確認する為にロケ車に戻った。

そこでじっくり確認した所、木に半分隠れていたはずの顔が、木から離れて完全な顔として映っていたそうだ。 
これはやばいと思い、霊能者のいる場所に写真を持って行った。

そして霊能者が見た時には、写真全体が真っ黒になり、判別不能になっていた。 

その事は黒田以外のスタッフも確認していて、 
黒田はそれ以来、本当に心霊写真はあると信じるようなったそうだ。

今年33歳になるが、もう30年近く前の俺が幼稚園に通ってた頃の話です。 

昔はお寺さんが幼稚園を経営してるケースが多くて、俺が通ってた所もそうだった。 
今にして思うと、園の横は納骨堂だったし、その隣は古い墓地だった。 

夕方、幼稚園の遊具で遊んでいた。外には俺一人だった。 
室内には何人も人がいたんだと思う。でもそのときは、何故か俺一人だった。 
ジャングルジムの上に人が座っていた。男の子だった。 
黒の半ズボンに、黒い金ボタンの上着を着ていた。裸足だった。 
坊主頭で、小学生くらいだったんだろうか。すぐ自分より2つ3つ年上の子だと分かった。 
その子はじっと俺の方を見ていた。 
特に怖いとか、ビックリした記憶は残って無い。ただ、何故か無性に寂しくなったのを覚えている。 

その子は黙ってジャングルジムから下りると、納骨堂の横を通って墓地の方へ歩いて行った。 
俺はその子の後について行った。
墓地と言っても、園の隣で見慣れた景色だったし、日頃かくれんぼをして遊ぶ場所だったので、特に怖いとは思わなかった。

その子を目で追ってたつもりだったが、何故か今思い出そうとしても、その時の光景が思い出せない。
だがその時見た、苔の生えた小さな墓だけは鮮明に脳裏に焼きついている。
古い墓地によくある巨木が夕日を遮っていたので、辺りは薄暗かった。 
その薄暗さを意識した瞬間、すごく怖くなって走って園に戻った。 
時間にして1~2分の出来事だったんだろうが、今思うとすごい長い時間だった様な気がしてならない。 

しばらくして、祖母が迎えに来てくれた。 
今思うと、祖母が迎えに来てくれたのは、その時が最初で最後だった。 
何故かその時、祖母の顔を見た瞬間の安堵感を覚えている。 
そして祖母は、墓の方を物悲しい顔でしばらく見ていた後、
「○○ちゃん(俺)。何も心配せんでよか・・・ばあちゃんがちゃんとしてやっけんね」
と、俺の顔をまじまじと見ながら言った。 
二人で手を繋いで家に帰った。

途中、駄菓子屋の前を通りかかった時、俺は無性に寄り道したかったが、
「今日はあかん!今日はあかん!早よ帰らんばあかん!」と祖母にたしなめられた。 

祖母が死んだのは、その日の深夜だった。 
何故か俺には、祖母の死が記憶としてハッキリ残っていない。
葬儀で親戚やら知人やらが家に大挙して、慌しかったのは覚えているが、
祖母が死んだ悲しさが、今でも全く記憶から消えている。 

翌年、俺は小学生になった。
小学校も幼稚園と道を挟んで隣接していたが、俺はその後、一切近寄らなかった。
正確に言えば近寄れなかった。 
意識すると頭の中に、苔にまみれたあの小さな墓が浮かからだ。 

中学2年になった時、町内のボランティアで、再び幼稚園のあるその寺を訪れることになった。
墓地は整備され、古い無縁仏や墓石は撤去されて、以前の面影は残っていなかった。
幼稚園も新築され、当時とは全く景色が変わっていた。 
寺の本堂が改築されるらしく、古い荷物やらゴミやらの掃除がボランティアの仕事だった。

住職が、何十年ものあいだ寺に持ち込まれた物を整理している。 
その中に遺影が何十枚もあった。俺と友人は、それを外に運び出すよう言われた。 
黄ばんだ新聞紙に包まれた遺影の中に、一枚だけ裸の遺影があった。 
俺はその遺影を手に取って見た瞬間、全身の血が凍った。 
あの時みた少年の遺影だった。
そして、その少年の背後から、
その少年の首をこの世の物とは思えない形相で絞めている、祖母の顔が写っていた。 

俺は気を失い、目がさめた時は病院だった。 
父も母も、恐怖で顔が尋常ではなかった。 

後に、写真は住職が供養して、焼却処分したと聞いた。 
父が住職に聞いた話では、その少年は戦時中、土地の地主が養子に引き取った子で、
かなりの冷遇を受けた後、病死したらしかった。 
祖母は若い頃、その地主の家で手伝いをしていたらしく、かなりその子を可愛がっていたそうです。 
その少年は多分、俺を連れて行く為に現れたんだろうと、住職は言っていたそうです。 
祖母はそれをさせまいとして、その結果があの写真だったのだろうと言っていました。 
その後、すぐ引っ越したのですが、今でも思い出します。

何年か前にひどい目にあった話を投下します。 

何年か前のある日の夕方、俺は友人Aを乗せて車を走らせていた。少し離れた友人Bの家で、酒盛りをする為である。
プチ同窓会のような感じで、大学時代の仲の良かった10人くらいで集まって飲もうか、ということになったのである。
そこで、家の近かったAを拾ってからBの家に向かう予定だったが、
Aが時間を勘違いしていて、出発が遅れたのである。
平謝りするAを車に乗せて結構なスピードで走っていたが、間に合うかどうか微妙だった。 

友人Bの家は、山を越えた向こう側にあった。山越えの道に入ったら、車は俺ら以外に走っていなかった。 
曲がりくねってはいるが一本道で、信号もなく片側一車線のそれなりに走りやすい道なので、
俺は調子に乗って飛ばしていた。 

Aと他愛もない話をしながら車を走らせていると、
前方にやたらゆっくりと走っている、軽自動車のテールランプが見えた。 
一本道であるために、山を越えてふもと付近に下りるまで追い越すスペースがない。
はっきり言って、焦っている俺たちには邪魔な存在だった。

そうこうしているうちに、軽に追いついてしまった。
俺とAは何を会話するわけでもなく、いらいらしながらその後ろを走っていた。
しばらく軽の後ろを我慢して走っていたが、やたら遅い。カーブの度に止まりそうな位ブレーキを踏む。 
いくらなんでも遅すぎる。
この焦っている時に勘弁して欲しい、ってくらいの嫌味な速度で走り続ける軽自動車。
俺はとうとう痺れを切らしてAに言った。 

俺「いくらなんでも遅すぎるよなあ。見通しのええ所で対向車線に入って追い越すぞ」
A「・・・・・・・・・」
ん?Aから返事がない。ちらっと見ると、Aは真っ青な顔をしていた。
なんだか尋常な様子ではない。調子に乗って飛ばしすぎたから、車に酔ってしまったのだろうか・・・。 
俺「おいA。どうした。気分悪いか?」
A「・・・・・・・・・」
俺「おい?どうした?」
Aに声をかけるが返事がない。気分が悪いというか、何かに怯えている? 
俺「おい!A!なんだ?何があった?」
ちと怒鳴り気味に声をかけると、Aははっとしたように口を開いた。 
A「あれはまずいぞ、Y(俺)!早く追い越してくれ!」
俺「はあ?何がまずいねん?訳分からん。まあ、追い越すけど・・・」

前が遅くていらいらしている所に、Aの訳の分からんリアクションでさらにムカッと来た俺は、
少し見通しの良い直線に来たところで軽を追い越した。
軽の前に入ってグッと加速する。
軽をバックミラーで確認すると、あっという間にいなくなった。 

追い越しをかけて軽快に車を走らせていると、少し気分が落ち着いた。
Aの方をチラッとみると、Aも顔色が良くなって落ち着いているようなので、先ほどの事をたずねてみた。 

俺「おいA。何があった?」
A「・・・あのさ、見間違いかも知れんけどな。あの軽っておかしくなかった?」
俺「おかしいって・・・。まあ、異様に遅かったけどな。
 どうせ爺さんか婆さんかおばはんの、とろとろ運転やろ?」
A「・・・あの軽の中見んかった?」
俺「・・・見てないけど?」
A「・・・まあ、ええやん。止めよ。この話」
俺「そこまで話し振っといて止めれるかいな。なんやねん、一体」
話しながら、ふとバックミラーに目をやると、
さっきまで何もいなかった真後ろに、車が一台くっついて走っていた。というより、もろに煽られていた。
どう考えても、さっき追い越した軽が煽ってる以外に考えられない。 
しかし、物凄い煽りようである。パッシングするはハイビームだわ・・・。
それでも、俺は速度上げて頑張って走ったが、一向に振り切れない。
そして挙句の果てに、クラクションまで鳴らし始めた・・・。
背筋に寒い物が走った。 

俺「あかん。道譲るわ。さっきまであんだけとろかったくせに・・・」
そうAに告げると、Aが物凄い剣幕で言い返してきた。 
A「あかん、ぜったいあかん。譲ったら、止まったらあかん!!!」
俺はAの様子に少々びっくりしたが、落ち着いてAに言った。 
俺「無理。こんな調子で煽られてこんな速度で走ってたら、事故起こすわ。譲る」
Aが何故か涙目で俺を見ていたが、「分かった」と一言言うとうつむいてしまった。 
俺が道を譲ろうと左ウィンカーを出し、速度をゆっくり落としながら車を左に寄せ始めると、
「ゴツン」という衝撃が後ろから走った。
早く行けと、バンパーでこづいているような感じだった。
相手が尋常じゃない奴だと、今更ながら気付いた。 

道を譲るのは無理だと判断した俺は、また速度を上げて走り始めた。 
物凄く恐ろしかった。下手に減速できない。道を譲る事も出来ない。
とにかく逃げ込めるスペースのある場所まで、事故を起こさないように走り続けるしかなかった。
もう少し行けば、山頂に休憩用の駐車スペースがあったはずだ。 

ものすごい煽りのプレッシャーを受けながらも、なんとか道の左側に山頂駐車場の出入り口が見えた。
24時間無料なので、出入り口はチェーンなど掛けられていない事は知っていたし、かなり広い場所なので、
スピードを出していたが、ぶつけずに駐車場に入る事が出来た。
駐車場の中に入ってすぐに車がスピンしてしまった。強引な角度で入ったためスピンしたのだろう。 
突然のスピンに気が動転したが、
幸いにも駐車場には他に車はなく、かなり広い事もあって、どこにもぶつけずにすんだ。 

停止してほっとして気がついた。あの軽自動車はいってしまっただろうか?
ふと一つしかない出入り口を見ると、その出入り口をふさぐ形で軽自動車が停車していた。全身総毛だった。 
俺「どうしよ。なんか待ち伏せしてるみたいやで・・・」
Aに喋りかけたが、Aは先ほどからうつむいたまま、こちらを見ようともしなかった。
もともと気の強い方ではないAの事だ。かなりテンパッる事は、見ても分かるとおりだった。
俺がしっかりしなきゃいけない。 

それよりも、先ほどぶつけられている事も気になっていた。
傷でも付けられていたら、弁償してもらわなきゃいけない。立派な接触事故だ。
怯えてテンパッてるAを見ているのと、ぶつけられ煽られた事に腹が立ってきた俺は、
なんであんなのにこっちがおびえなきゃいけないんだ、という気になってきて、恐怖より怒りが前に出てきた。
俺はAに「ちょっと文句言ってくる」と、捨て台詞をはいて車から降り、軽自動車の方へ歩いていった。
もちろんAは物凄い剣幕で反対してきたが、降りてしまえば関係ない。
何でも出てきやがれ、って感じで怒りを前面に出して、相手のほうへ歩いていった。 

軽に近づいて不思議に思ったが、中にどんな奴が乗っているか分からない。
前面までスモークフィルムを貼ってるのか?とか馬鹿なことを考えながら、
軽自動車の運転席の窓ガラスをノックした。
すると、運転席側の窓がすーっと開いた。 
中を見た俺は一瞬目を疑ったが、もう一度じっくり確認して・・・
一目散に車のほうへ逃げ帰った。
今まで生きてきた中で、一番早く走って一番大きな声を出しながら・・・。 

軽自動車の窓が開いた時、中には・・・人が乗っていた。
いや、そもそも人なんだろうか。それも何人も。
4人乗りの車に5人とか、そんなに生易しい物ではなかった。 
もうギュウギュウ詰め。例えるなら、通勤ラッシュの満員電車状態である。
隙間がないくらいびっちりと、狭い軽自動車の中が人で埋まっていたのである。
上下左右人の向きは関係なく、テトリスで隙間なく積み上げていくブロックのように・・・。 
しかも全員顔色が真っ青で、目が空洞の様になっていた。
老若男女いろんな人・・・。
その苦しそうな体勢の人たちが一斉に、窓の外に立っている俺のほうに顔を向けているのである。
首が180度回っている奴もいた。
結局中が見えなかったのは、人で車内が埋まっていたからである。 

車に戻ると慌てて車を発進させた。
Aは何も言わず、うつむいてガチガチ震えていた。
恐怖でパニクってた俺は、とにかくこの駐車場から出なきゃいけない、逃げなきゃいけないと思い、
強引ではあるが、出入り口に止まっている軽と柵の間のスペースに、
車を滑り込ませて無理矢理すり抜けようとした。
左の柵に当たった。バリバリといやな音を立てて、車と柵が悲鳴を上げた。
しかしそれどころじゃなかった。隣にある軽の方を見ないようにして、思いっきりアクセルを踏んだ。
車の頭が駐車場から道に入った瞬間、ついうっかり右を見てしまった。
視界に軽自動車が入った。中の人が全員こちらを見て笑っているように見えた。
そこで物凄い衝撃を食らって意識がなくなった。 

気付いたら病院だった。 

結局、駐車場から車の頭を物凄い勢いで出した俺の車に、
普通に走ってきた車が、俺の車のフロント部分横へぶつかったのである。 
Aは頭を打ったらしいがほとんど外傷がなく、軽い打ち身があちこちにあるくらいで無事だった。 
俺は開いたエアバックに思いっきりぶつかったせいなのだろうか?
鼻を骨折して前歯が3本ほど折れて、足もどうやったのか分かんないけど、右足の骨にヒビが入っていた。
打ち身も体のあちこちに出来ていて熱が出て、しばらく入院を余儀なくされた。 
相手の方は、20過ぎの女性で無傷だった。お互いに車はボコボコだったけど・・・。 
結局、警察と保険屋が入って、お互い話し合いして決着は付いた。 

後日、退院できるかなといった時に、事故った相手の女性が見舞いに来てくれた。
相手の女性に軽自動車の事を聞いたら、そんな車はいなかったと言われた。 

先に退院したAは、やはり前に走っている時から、あの軽自動車の中身が分かっていたらしい。
俺が見てないのなら、俺にまで変な恐怖を味あわせたくなかったから、黙っていたらしい。 

車は直せない事もなさそうだったけど、なんだか縁起が悪そうだから廃車にした。 

退院はできたけど、打ち身の痣がしばらく消えなかった。
なんだか痣の形が、手のひらで叩いた後のようになっていた。
それも、大きい物から小さい物まで、たくさんの人に叩かれたようになっていた。
ちなみに、Aの体に出来た打ち身もそんな感じだったらしい。 

Aが、財布の中に入れてあった母親から貰った身代わりお守りが、(そんなようなもんがあるのかな?)
粉々に割れていたとも言っていた。 

結局、手の形をした痣もそれも、時間はかかったけど今ではすっかり綺麗に直った。 

オチも何もないけど、洒落にならんかった。怖かった。
あの軽自動車もなんだったか分からない。 
今でも車を運転していて後ろを煽られると、あの時の事を思い出す。

それほど怖いかどうかは分からんけど、 
2年ほど前、私は友人3人と4人で幽霊が出ると有名な廃墟の元病院跡に行きました。 
ここはさすがに一歩踏み込んだ時点で「おかしいな」と思うほど、 
冷気に満ちていて夏だというのに私は肌寒くなってきました。 
で、暫く階段も上り進んでいくと病室が並ぶ病棟に出ました。 
その階のナースステーションを見た友達のAが「誰かがいた」と言いました。 
これが始まりだったのです。私達は怖くなったのですが、やはり肝試しできた事もあり、 
怖いからと帰る気にもなれず、その階を手分けして散策しようという事になったのです。 
私はAと共にナースステーションを中心に探索しようと詰め所に入り、色々探っていました。 
するとAが私の肩を叩き、血の気のない顔で震えながら「Bが奥の病室に入っていく時、 
その後ろに付いていく影が見えた」と言うのです。
で、言い終わった後私に「肩ぶつけたの?」と聞いてくるのです。 
私は不審に思いながらも右肩を見てみると何か泥水を付けられたような痕が白いTシャツにべったり付いているのです。 
私はお気に入りのTシャツだった事もあり、
Aに「ちょっとさっきアンタが叩いた時にこうなったんでしょ!」と少し強い口調で言いました。 
するとAは何言ってんの?という感じの顔で「肩なんて叩いてないけど?」と言うのです。 
私は怖くなって、「こんな時にからかわないで!」と怒ると、
Aは「何時の話してんの?本当に触ってないよ」と真剣な顔で返してきました。 
さすがに私は本気で怖くなってきて、とりあえずBとCを呼んで、もう帰ろうと言いました。 


が、AはBとCが入って行った部屋に近付くのも怖いみたいで、ナースステーションから呼ぶ事にしました。 
しかし何度呼んでも返事がありません。 
私もAから影が付いていったと聞いた後なので、さすがに呼びに行けません。何より右肩が妙に重く痛かったのです。 
その時、Aが「携帯で呼ぼうか?」とBに電話しました。
すると何と着信音が反対側の通路の方から聞こえてきたのです。 
それだけでも不意打ちでビックリしたのに、電話に出たのは明らかに男性だったらしいのです。
Aが焦ってBに替わってと何度も言っていました。 
諦めたのか電話を切ったAは私に「ねぇ私達だけでも逃げた方が良いかも…」と言いました。
その時電話に出たのが男性だった事を聞きました。 
もう私達は怖くなって、急いで階段に向かって全速力で下りていきました。 
病院から抜け出すと車まで全速力で走って車に乗り込むと、少し余裕が出来てきて、
私は「電話してみようか?」と今度はCに電話しました。 
するとCは速攻出て
「ちょっとBが急にいなくなったんだけど?2人と一緒にいるわけ?うちだけ1人?勘弁してよ~」
と意外に呑気で少し安心しました。
で、とりあえずCには急いで出てくるように伝え、改めてBに電話しましたが繋がりません。 
私達は車を病院のフェンス越しまで近づけてCを待っていると、暫くしてCがふらつきながら出てきました。 
「どの部屋にもBがいないって!電話も繋がんないし、ちょっとヤバくね?どうする?」
とCが車に近づきながら大きめの声で話してきました。 
とりあえずCを車に乗せて事情を聞きました。
Cが言うには奥の病室に2人で入ろうとした時、BがCの背中を何度も突くので、
Cが振り向くとそこにはBは既にいなくて、Cは怖くなって私やAの所に行ったのだろうとその時は思っていたようです。
そして、私からの電話の後はCは1人でひたすらBを探し回っていたらしいのですが、 
その時、トイレから男性の話し声が聞こえてきたらしく、
強者のCは個室を片っ端から開いて中を確認していったらしいんだけど、 
結局誰もいなく、Bの名前を叫んでも返事はなく、とりあえず出てきたらしいんです。 

暫く、そこに車を止めて、3人で話し合ってるとBが泣きながら大急ぎで車まで突っ走ってきました。 
私達は安心してBを迎え入れようとドアを開けても入ってこずにBは泣きながら激怒しているのです。 
「ちょっとどういうつもりよ!皆でシカトして!何度呼んだと思ってんのよ!
 しかも3人だけで帰るつもりだったんでしょ!」
と叫んで、そのまま倒れました。
私達は怖くなって急いで救急に電話して救急車を呼びました。 
彼女はそのまま搬送された病院で亡くなりました。脳梗塞でした。
まだ26歳だったのに、しかも倒れてすぐに搬送されたのに手遅れだったというのです。
その時、救急隊員に私は「肩どうしたの?」と聞かれ、
思い出し、右肩を見てみると何と泥だと思っていたのは どす黒くなった血のようなものでした。
そして後で気付いたのですが、
Cの背中にも私と同じようにドス黒くなった血のような小さな手形が無数に付いていました。 

それから翌年、Cが急性白血病で亡くなり、その半年後にAが交通事故で亡くなり、生き残っているのは私1人です。 
その私も5月に脳梗塞で倒れ右半身麻痺になり、今もリハビリ入院中です。 
しかし今は安心しています。
入院する前は家にいると恐怖に震えていましたが、入院していると何故か不思議に怖くないのです。 
病院は何かに守られているのでしょうか?とても不思議です。 
自宅にいる時によく見た悪夢も見ないで済んでいます。
鏡に映る影に悩まれせる事もなくなって、このまま入院てのもいいかな、とかまで思っています。
亡くなった3人には悪いけど、私は生き残れそうです。

私が小4の時。

学校から家に帰ると、玄関の内側から妹の泣き声と、母親のうめき声が微かに聞こえてきました。
「何があったの!?」とパニックに陥った瞬間、
2階の窓がガラリと開いて、知らない女の人が顔を出し、
「泥棒だよ。逃げな。△△ちゃん(妹)は死んだよ」と小さく一言。すっと奥へ消える女。

妹はまだ幼稚園児。
私は庭に転がってたほうきを持って、半泣きで家の中に転がり込んだのです。
すると、足の膝の所をスッパリ切って大出血している妹と、あまりの事に発作を起こして倒れている母親が!
「○○ちゃん……隣の家の……おじちゃん…」
玄関の方へ這う様にして倒れている母親。這ってでも外に出ようとしたのでしょう。

慌てて隣の家のおじちゃんを呼んで来て、止血。
おじちゃんのワゴンで近くの病院へ。(救急車なんか待ってられない!とおじちゃんが絶叫)

しかし、何故か病院に救急で駆け込んだのに、「名前を書いてお待ち下さい」と言われ、
あげくに、足を切ってる子供に「熱をはかってください」と。
「あほかぁぁ!!!骨が見えてるんじゃあああ!!!」
病院中に響くような声で、また大絶叫するおじちゃん。
なんだかんだですぐに緊急手術。

妹はその日の夜には、「お姉ちゃん」と笑うぐらいに元気になってました。
家の中で遊んでて、ガラス製の水槽を踏み抜いたのこと。

命からがら家に帰ってきた私は、すっかり忘れていた事を思い出しました。
あの時、物騒にも人の妹を「死んだ」とのたまったあの女は、一体誰だったんだ?と。
勿論その日家には、妹と母親以外誰もいませんでした。

結局、女の事は誰にも言わないまま、もう10年がたとうとしています。
もしかして、私を家に入れたくない(妹を殺したい)何かだったのかな、と思うたび、
あの時勇気を出して家に入ってよかった、と思います。

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