私が小学校五年生のときの話です。 
そのころ私はひとつ年上の兄と同じ部屋を使っていました。 
夜は、二段ベッドで上が兄、私は下で寝ていました。 

ある日、たぶん明け方近くだと思うのですが、私は夢か現かという状態のときに、金縛りにかかってしまいました。
自分でも、起きているのか夢の中でのことなのかよくわからない、そんな感じです。
瞼は開かず、体を動かそうと思っても、実際に自分の肉体が動いているのかよくわからない、
そんな状態の中、瞼の裏にいろんな映像が浮かび上がってきたのです。 
最初はぼやーっとしていてよくわからないのですが、だんだんとはっきりとしたものとなっていき、 
それが『顔』であるのがわかるようになりました。
いくつもの顔が私のすぐ近くに浮いているのです。 
全部私の知っている顔でした。
父の顔や兄の顔、死んだはずのおじいちゃんや、親戚の人たちの顔が、 
ふらふらと、わずかに揺れながら私の視界を埋め尽くしています。 
私はなんだかとっても怖くなって、顔をどっかにやろうと手を伸ばして無我夢中で振り回しました。

でも、私の手は顔に触れることなく、ただ空を切るばかりなのです。何度繰り返しても駄目です。
依然、いくつもの顔は私の前を漂い、私の手もむなしく空を切っていると、突然上のほうから声が聞こえてきたのです。
兄が寝ているはずの二段ベッドの上です。
声はこんなことを言いました。
「ははっ、何やっとんねん、おもしろい、ははっ、そんなんしても意味ないわ」 
まるで兄とは違った、聞いたことのない声でした。 
そのまま私は、恐怖のあまり半ば気を失うようにして意識をなくして、再び眠りに落ちていきました。 

その後、何度か兄にそのときのことを話したのですが、
何も覚えていないし、ふざけてでもそんなことをした覚えはないといっています。 
いったいなんだったのでしょう。
いまだにあのときの声は忘れることなく、私のどこかに残っています。


これも同じように、小学校高学年くらいの女の子が二段ベッドで寝ていたんです。 
それで、夢を見たんですよ。
夢の中で、これも同じようにたくさんの人が出てきて、全部知り合い、それも血縁のね。 
で、みんな「助けてくれ」と言って、手を振っているんです。 
女の子は助けてあげたいと思うんですが、自分とみんなの間にはとても深い川があって、どうにもならないんですよ。 
それでも何とかしてあげたい、そう思って女の子は思いっきり手を伸ばして、 
だれでもいいから振り上げている腕をつかんでこちら側に引っ張ることはできないかと、必死になるんです。 
そうやって繰り返していると、ちょうどお父さんの手と自分の伸ばした手がうまい具合に重なり合った。 
でも、その瞬間、重なり合った手の感触があまりにリアルで、女の子はびっくりしたんです。

周りのイメージ、夢の中の川だとか手を振るみんなとか、
そういったものと極端に異なった、異様にリアルな感触にあまりも驚いて、キャッとなって目を覚ました。 
すると、目の前には二段ベッドの天井が見える。
あ、やっぱり夢だったんだ、と安心しながらも、 
手にリアルなあの感触残っていることに気づいて、思わずひょいとその手を引っぱったんです。 
すると、何もないところからリアルなお父さんの顔だけが目の前に現れて、引いた手の動きに合わせて近づいていくる。 
それで、びっくりして女の子は気を失ってしまう、とこんな感じの話です。